タイタンの海難事故で亡くなった5人(写真/AFP=時事)
「壊滅的な問題につながる」と警告も
以前、タイタニック号見学ツアーに参加した女性の体験記を6月23日付の毎日新聞が掲載していた。
〈海面から差し込む光は、水深100メートルを過ぎたあたりから届かなくなり、周囲は暗闇に包まれた。(中略)操縦士と整備士に命を託していました。生きるか死ぬか。鋭い緊張感があり、1秒を長く感じた〉
前出の斎藤氏がいう。
「沈没船を救った実績のある日本の『潜水艦救難艦』でも救出できるのはせいぜい水深数百メートルまで。それ以上の深さに沈んでしまったら、手の打ちようがない」
深海への潜水艇ツアーでは、乗組員は「死のリスクを承知で参加する」という誓約書に事前にサインするのが通例だという。今回の事故でも、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどはタイタンの運営会社が乗船客に対して、「死亡しても責任は負わない」という免責の書類に署名させていたと報じた。
だとしても、運営会社の過失は問われるべきだ。タイタンの危険性については、2018年に海洋専門家が「壊滅的な問題につながる」と警告していたことが報じられている。潜水艇による深海調査に詳しい名古屋大学の道林克禎教授も構造上の問題を指摘する。
「タイタンの『耐圧殻』は胴長の円筒型で、圧力に耐えられる作りとは考えにくい。潜水艇の耐圧殻は通常10cmほどの厚みがあるチタン合金製で、形状は球体。球体は水圧が均等にかかり一番圧力に耐えられるからです。世界の深海調査研究の中核を担う日本の有人潜水調査船『しんかい6500』の耐圧殻は内径2mほどの球体で3人乗り。タイタンは5人乗れるようにするために前述のような形にしたのかもしれないが、乗組員の安全面が担保されていたのかは甚だ疑問です」
耐圧殻に使用されていた素材も、チタン合金ではなく炭素繊維だったと報じられている。
「実際の原因やきっかけは不明だが、ひと言でいえば“不適合品”ということになる」(道林氏)