〈おとうさんは青い。青いうんこをしたい
おとうさんは赤い。赤いうんこをしたい
おとうさんは黄色い。黄色いうんこをしたい
おとうさんは黒い。黒いうんこをしたい〉
初期の代表作である『テリトリー論1』には、伊藤家の絶対の秘密である父の刺青がぶちまけられている。だが、解説は無粋な詩作で、これを父の刺青だと気づく読者は少なかったろう。昨年は左右社のサイトで、幼少期の記憶をたどる『わたしのおとうさんのりゅう』の連載が始まった。『りゅう』はおそらく刺青の暗喩だ。
「(ヤクザだった父を)真正面から書くつもりです」
伊藤比呂美は言う。彼女を縛り付ける呪いは消えるだろうか。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
伊藤比呂美(いとう・ひろみ)/1955年、東京生まれ。詩人、小説家。1978年、詩集『草木の空』でデビュー。1999年『ラニーニャ』で野間文芸新人賞、2006年『河原荒草』で高見順賞、2007年『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞、翌年に紫式部文学賞など受賞多数。『良いおっぱい 悪いおっぱい』等、育児エッセイ分野も開拓した。
※週刊ポスト2023年7月21・28日号