時に非道にも走る彼らの言動を、岩井作品では現代の尺度で断罪せず、むしろ彼らをそうさせるに至った切実さを読ませる。だからだろう。やがて秀吉の世となり、為信もまた京や小田原や九州や半島へも遠征や謁見を求められる過程では、中央の論理に搦めとられることへの苛立ちが読者にも募り、誰もが奔放に天下を志した時代から組織の中で生きる息苦しさの時代への端境期を感じさせる。
「一応私も元会社員なので。かといって今より戦国の世がいいわけもなく、その時々の状況をこの人はこう生きたってことでしかない。まあ本書の為信は〈なにが表裏の仁だ〉〈みなはみな、南部は南部、津軽は津軽だ。真似をすることもない〉と一度だけ抵抗しますけど、基本何をしても『津軽一統志』にそう書いてあるから、しかたないんです(笑)」
しかも為信は〈この男、死んだ後も目が離せない〉とあるように、棺を蓋いてなお諦めない曲者であり、彼が卍の旗印の下に築いた国は〈怨霊〉に祟られもしながら、結果的には明治の廃藩置県までを生き延びるのだ。
【プロフィール】
岩井三四二(いわい・みよじ)/1958年岐阜県生まれ。一橋大学経済学部卒。東芝勤務の傍ら、1996年『一所懸命』で第64回小説現代新人賞を受賞。2003年より作家専業に。1998年『簒奪者』で歴史群像大賞。2003年『月ノ浦惣庄公事置書』で松本清張賞。2004年『村を助くは誰ぞ』で歴史文学賞。2008年『清佑、ただいま在庄』で中山義秀文学賞。2014年『異国合戦 蒙古襲来異聞』で本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。著書は他に『十楽の夢』『難儀でござる』『切腹屋』等多数。172cm、63kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2023年7月21・28日号