ベナン共和国出身のアイエドゥン・エマヌエルさん

関西弁も話すエマさん

 うん、うんとうなずきながらエマさんは話してくれる。発話について常に思いを巡らせていることが伝わってくる。その思考は、現在エマさんが取り組んでいる『ヒトの言語学習を支える会話システム』の研究にも当然つながっているだろう。

「外国語を学ぶ動機や目的は、その言語を使ってコミュニケーションしたい、しなければならないというところに行き着くと思うんです。でも、たとえば、普段英語を勉強しているのに、道を歩いている時に突然英語話者に話しかけられてうまく答えられなかった、みたいな経験は多くの人が持っていると思います。ドキッとして言葉が出てこないっていう。

 外国語に対する意欲を、具体的に『話すという行為』につなげようとする時、文法力とか語彙力よりも、感情的な余裕のほうが大事だという説があります。外国語でのコミュニケーションには『不安のない状態』が肝心だというものなんですけど、今、研究室で取り組んでいるのは、その状態をサポートするシステムです。

 会話練習の相手をしながら、励ましやヒントを適切に与えて感情のケアをする、人間の曖昧な側面を考慮してふるまうシステムを作りたい。人情のあるシステムっていうんですかね。言語学習の支援というのは研究テーマとしてものすごく面白いし、自分が日本語を学んできた過程の中にも、いろいろ手がかりがある気がしています」

 日本でのすべての時間が、今のエマさんを作っているのだなと思う。日本語はもうエマさんにとって『自然なもの』になっているだろうか。

「完全にではないですけど、なりつつあるかなとは思います。英語の文章を翻訳しなさいと指示されたら、前は一旦フランス語に訳して意味を把握していたんですけど、今は日本語で読んでいますね。日本語のほうが先に出てくる。

 最近はフランス語を喋っていると『え? そんな喋り方はフランス語でしなくない?』みたいな反応が返ってきます。よう分かんないんですけど、癖とか、頭の動かし方とか、話す時のゼスチャーが日本語っぽいらしいです。口はフランス語を発してるんだけど、体は日本語喋ってるよ、みたいな(笑)。

 あと、本当は今日は関西弁、一切使わずに喋りたかったんですけど、でもちょっと出てしまいました。標準語で覚えたルールが、関西弁のほうに置き換わっていってる感触も実はあって……フランス語がどんどん下手になって、その分関西弁がだいぶ進出している感じです(笑)」

(了。第1回から読む

【プロフィール】
アイエドゥン・エマヌエル/ベナン共和国生まれ。2012年に大阪府立大学 現代システム科学域 知識情報システム学類に入学。卒業後、大学院人間社会システム科学研究科に進学し「第二言語コミュニケーション意欲を高める会話エージェントの開発」をテーマに研究を進め、博士号取得。現在は関西大学システム理工学部電気電子情報工学科助教。

◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。

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