ファン待望の稲垣吾郎による新作主演舞台『多重露光』が開幕する。稲垣も公認の長年にわたるファン“安定の吾郎担”である放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、今回の舞台への思い、そしてプライベートまで踏み込んでインタビュー。
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「多重露光」とは、写真撮影におけるテクニックの一つ。1コマの中に複数の画像を重ねて写し込むことで、「多重露出」「二重写し」とも呼ばれている。
今作の舞台は街の小さな写真館。その写真館の2代目店主である山田純九郎(稲垣)を中心に、彼の父母、幼馴染じみ、取引先の中学校教師。写真館で家族写真を撮り続けていた家族の“お嬢様”や、その息子といった人々が描かれている。
近年、自宅に「暗室」を作り、フィルムカメラでの撮影を趣味としていた稲垣は、なぜ『多重露光』という作品に出会えたのか。これまで“大きな事件”もなかったという自身の家族とは異なる「家族」に出会った稲垣の想いとは……。この4月よりレギュラーの『趣味の園芸』「稲垣吾郎 グリーンサムへの12か月」(NHK Eテレ)撮影後の稲垣を訪ねた。
山田:待ちに待った吾郎サンの舞台ですが、今作のクレジットに、近年、タッグを組んできた鈴木聡さん、白井晃さんや、「劇団☆新感線」の中島かずきさんら“おなじみ”の名前がありません。今作で初めてタッグを組んだ劇作家の横山拓也さんと、どのような化学反応が見られるのか。ファンとしてもワクワク感がとまりません。
悩みがない僕の“リアル家族”とは全く異なる家族の話
稲垣:ありがとうございます。脚本が横山拓也さんで、演出が真鍋卓嗣さんです。横山さんが綴る会話劇やストレートプレイというのが、まずとても新鮮です。白井さんが演出で中島さんが脚本の『No.9(‐不滅の旋律‐)』や『サンソン(‐ルイ16世の首を刎ねた男‐)』はスケール感がとても大きくて、一方、鈴木聡さん作の『恋と音楽』シリーズはミュージカルだし、ファンタジーで夢のようなお話でした。それが今回はとてもリアルな家族の話です。
振り返ると、僕、家族をテーマにした作品って、それほどやってないんですよね。最近でいうと、阪本順治監督の映画『半世界』は家族や夫婦の話だったけれど……、実は少ないジャンルなんです。ドラマでも、ラブストーリーとか、お医者さんとか検事とかの職業モノが多かった印象です。だから、こういうリアルな家族の色々な風景を描いた作品というのはとても新鮮だし、すごく楽しいです。
それと……、僕の“リアル家族”とは全く異なる話なんですよね。僕自身、家族に対しての悩みっていうのがこれまで一切なかったので、ちょっと鈍感になってしまっている自分がいるんです。この歳になっても近しい家族が亡くなったという経験もまだなくて、とにかく大きな事件が全くない家族なんです。
ところが、今作の主人公は、幼い頃から「こういう人間になれ」と親に言われ続けてきたことに縛られて呪縛…、台詞では「呪い」とまで言っているんですけれど、本当の自分はどうあるべきか、どうやって生きていくべきか悩み続けてきた……。写真家の役ですが、自分の撮りたいものは何かもわからず、家族のカタチというものも、親がずっといなかったこともあって求め続けてきたんですよね。
45歳という設定なんだけど、まだ本当の意味で自分を見つけられていないんです。僕だったら、多少クリアできていない問題があったとしても前に進んできたし、年齢を重ねるのと共に、そういうことに蓋をして、折り合いをつけて生きてきちゃいましたからね……、これ、人によりますか?
実際、両親もまだ元気ですし、姉も子供がいて、順風満帆にやっているんです。甥っ子たちの成長を見る楽しみも僕にはある。だから、親の“呪縛”を抱えて、そこから脱することができずに生きている人に今回出会えたこともまた新鮮なんです。これは人の繊細な気持ちにちゃんと向き合って演じていこうと気持ちを新たにしているところです」