国際情報

【佐藤優が見通すパレスチナ情勢】ハマスより深刻なのはヒズボラか イスラエルの「核使用」のハードル下がる“最悪シナリオ”

佐藤優氏は今後のパレスチナ情勢をどう見る?

佐藤優氏は今後のパレスチナ情勢をどう見る?

 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム武装組織「ハマス」とイスラエルの激しい軍事衝突が、緊迫の度を増している。作家で元外務省分析官の佐藤優氏に、懸念される「最悪のシナリオ」を聞いた。

 * * *
 日本では連日、イスラエル軍のガザ空爆で何千人もの子供や女性が死亡したと、パレスチナ側に同情的な報道が続く。ハマス側の論理は、「一般市民を標的にした非人道的な攻撃」というものだ。

 だが、事態を正確に認識するためには、イスラエル側の内在的論理も知る必要がある。日本のメディアではこれがほとんど報じられていない。

 衝突の発端は10月7日に始まったハマスによる奇襲攻撃で、英紙『ザ・テレグラフ』(10月12日付)はイスラエル側で少なくとも1600人が殺害され、数十人の子供が誘拐されたと伝えている。

 私が元モサド(イスラエル諜報特務庁)幹部から直接得た情報では、イスラエル側のインテリジェンス(情報機関)は、モサドも、軍諜報機関のアマンも、治安・テロ対策機関のシンベトも、ハマスの攻撃の情報を掴めなかったうえ、軍は初動において攻撃を鎮圧できなかった。元幹部は「インテリジェンス、軍事作戦、政治の3つの面でイスラエルは深刻な過ちを犯した」と指摘している。

むしろ危険なのは北部

 奇襲攻撃を受けたイスラエル政府は惨たらしく殺された乳児の遺体写真を公開。ネタニヤフ首相は激しく批判したが、ここからイスラエル側に内在する論理を読み取れる。

 赤ん坊に政治的責任があるか? もちろんない。ではなぜ殺されたのか?

 つまり、これはナチスと同様の「ユダヤ人だから殺してしまえ」という、民族や人種を理由にした“属性排除”だ。イスラエルは、ハマスがナチズム的な思想を行動に表わしたと受け止めている。

 10月24日の国連安保理の閣僚級会合でも、イスラエルのコーヘン外相は「この虐殺は歴史に刻まれる。ハマスは新たなナチスだ。イスラエルにとってハマスを破壊することは権利ではなく義務だ」とはっきり述べた。

 ハマスの構成員は約3万人だが、民主的な選挙でガザ地区の自治政府を握っている。自治政府の公務員、教師、医師などはハマスの構成員ではないけれども、イスラエルはこれをどう扱うか。

 ここでナチスのアイヒマン裁判(注:アイヒマン裁判/第二次大戦後にアルゼンチンで逃亡生活を送っていたナチス・ドイツの元親衛隊中佐であるアドルフ・アイヒマンが、1960年、モサドによりイスラエルに連行され、エルサレムでかけられた裁判。「人道に対する罪」などに問われ、有罪・死刑判決が下された)を思い出してほしい。アイヒマンは、自分はユダヤ人虐殺に直接手を下していないし命令もしていないと主張したが、これに対してユダヤ人哲学者のハンナ・アーレントは「あなたは私たちがユダヤ人であるということを唯一の理由として地上から抹殺するシステムに関わった。役割が積極的か消極的かは本質的な問題ではない。私たちはそういうあなたと一緒に地上にいたくないと言うことができる。これが、あなたが死刑にされる理由だ」と反論した。現在のイスラエルはこの論理で動いている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

『傷だらけの天使』出演当時を振り返る水谷豊
【放送から50年】水谷豊が語る『傷だらけの天使』 リーゼントにこだわった理由と独特の口調「アニキ~」の原点
週刊ポスト
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
《英国史上最悪のレイプ犯の衝撃》中国人留学生容疑者の素顔と卑劣な犯行手口「アプリで自室に呼び危険な薬を酒に混ぜ…」「“性犯罪 の記念品”を所持」 
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
新年度も順調に仕事を増やし続けている森香澄
《各方面から引っ張りだこ》森香澄、“あざとかわいい”だけじゃない「実はすごいアナウンス力」、「SNSの使い方はピカイチ」
NEWSポストセブン
4月7日、天皇皇后両陛下は硫黄島へと出発された(撮影/JMPA)
雅子さま、大阪・沖縄・広島・長崎・モンゴルへのご公務で多忙な日々が続く 重大な懸念事項は、硫黄島訪問の強行日程の影響
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン