その情熱の対象は暴力、金、美、家族等々、人によって様々だが、その結果生まれた行動の良し悪しは決め付けたくなかったという。
「異様な情熱を持つ人間は僕も怖い。でもその情熱が世界を動かす場合もあって、善悪じゃないんですよね。コロナ以降、人に正しくあれと強いるのも、もはや一種の情熱ではありますが、僕が本書にもう一つ書いたのが〈犠牲〉ということ。何の犠牲も払わずに誰かを叩くだけの人に僕は魅力を感じないし、何かを変えられる気がしないんです」
そうやって人々の情熱が何重にも交錯する中、1人、全く異なる時空をQは舞い、その凄絶な描写やラストのライブシーンはまさに圧巻。問題は私達読者がその歪で苛烈な情熱の、どこにいるかだ。
【プロフィール】
呉勝浩(ご・かつひろ)/1981年青森県八戸市生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2018年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞、2020年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞と第73回日本推理作家協会賞を受賞。また『スワン』『おれたちの歌をうたえ』『爆弾』と3作連続で直木賞候補に。「口の悪いある作家が言うんです。『俺達は候補になることで生き永らえる文学賞寄生虫だ』って(笑)」。173cm、A型、体重「非公開で!」。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年12月1日号