“ヒグマの大好物”もあまりに少ない
私が住んでいる地域はミズナラの林が多いのだが、地面に落ちているドングリは本当に少ない。集落の生き字引である、御年90歳ながらも現役で山に入って木を伐採されているご老人にお話を伺ったが、「こんなにナンもなってねぇ年は、90年生きてきて初めてだ」とおっしゃっていた。ドングリだけではない。ヤマブドウも木はたくさんあるのだが、実がなっているものは一握りだけだった。
そして何と言っても、ヒグマが最も好むのはサルナシ(北海道ではコクワと呼ばれる)だ。
ヒグマを撃つにあたって、私はまずその山のどこにサルナシが実っているかを詳細に把握するようにしている。それくらい、ヒグマにとって大切な果実だ。
実際、以前私が撃ったヒグマの胃を開けたところ、中身はほぼ100%サルナシだった。ムッとした甘い香りが周囲に立ち込め、よくここまでサルナシばかりを食べ歩いたものだと驚いた。
サルナシはキウイの近縁種で、大きさは3センチほど。緑色の果肉の中に黒い種の粒々が入っている様子から爽やかな風味まで、キウイにそっくりだ。北海道に自生する果実の中では最も甘いだろう。冬眠を前にして脂肪をたっぷりと蓄えなくてはならないヒグマにとって、またとない食べものだ。
そのサルナシが、実っていない。私が普段歩いている範囲には数百本のサルナシがあるが、2023年に実がなっているのを確認できたのは、たったの3本だけだった。もちろん、私の知らない場所もあるだろうし、実がなっていても気付かなかった可能性もある。それにしても、3本だけというのはあまりに少ない。