暑さが苦手のヒグマを襲った記録的猛暑

 山の果実の不作について、原因は明確ではない。ただ、2023年の夏は異常に暑かったことは確かだ。エアコン無しで過ごすのが当たり前の北海道に於いて、気温が下がる夜中に扇風機を回し続けてもまだ寝苦しかった。この異常気象により、森の木々が影響を受けた可能性は高いだろう。

 昨夏の高気温は、ヒグマにも大いに堪えたと思われる。

 ヒグマは暑さが大の苦手。猛暑の折には山を登り、万年雪をたたえた雪渓付近で暮らすものもいる。2000メートル級の山が連なる大雪山系で私が見たヒグマは、気持ちよさそうに雪の上を転げ回り、雪をムシャムシャと頬張っていた。

 意外に思えるかもしれないが、ヒグマにとって最も厳しい季節が夏だ。春に柔らかい新芽を出していた植物も夏には硬くなってしまい、果実が実ったりサケが遡上したりする秋はまだ先だ。見る影も無く痩せ細り、餓死する個体も出る程だ。

 食料が欠乏している上に、容赦なく襲いかかる酷暑。未曾有の夏をなんとか生き延び、心待ちにしていた秋を迎えたにもかかわらず、例年ならたわわに実るはずの果実は山にない。ヒグマにとっては手痛いダブルパンチだ。彼らの受難は、夏から既に始まっていたと、私は考えている。

 そうして極限にまで追い詰められたヒグマが、都市部まで出てくるようになったり、時に人を襲うようになったりした可能性は否めない。その根本的な原因は、地球温暖化を超え、「地球沸騰化」と称されるに至った異常気象にあるのではないか。クマが人間を襲う事例が増えてしまった現在の不幸な状況の、本当の責任は誰にあるのだろう。

“肉の味”を覚えさせたきっかけは?

 世間を騒がせたヒグマといえば、次々と牛を殺し、駆除に尽力するベテランハンターの裏をかき続けた挙句、昨年7月に釧路町役場の職員によって駆除されたOSO18も記憶に新しい。

 食べものの殆どが植物性のものだと考えられていたヒグマが、自ら牛を襲うのは異例の事態とされ、昨今はヒグマの肉食化が懸念されるようになってきた。手塩にかけて育てた牛が襲われるのは酪農家にとって大打撃であろうが、肉の味を覚えたヒグマが牛以外の哺乳類、つまりは人間をターゲットにし始めたら、と考えると更に恐ろしい。大千軒岳で登山者を襲ったヒグマも、そうした肉食化が進んだ結果と考えられないこともない。

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