ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十三話「大日本帝国の確立VIII」、「常任理事国・大日本帝国 その2」をお届けする(第1406回)。
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さて、現在は一九一四年(大正3)の第一次世界大戦勃発から日本の青島攻略戦を経て、日本いや大日本帝国の破綻の最大の原因になった「満洲国へのこだわり」へ進む歴史を分析中なのだが、ここで本題を中断して、昨年大きな話題となった二つの時事問題について触れたいと思う。ちょっと長くなるかもしれないが、じつはこの問題は日本の組織を考えるのに非常に有効な材料であるからだ。
いまやそういうことを知る読者のほうが少なくなってしまったが、私は昔マスコミ評論をやっていた。歴史家がなぜマスコミ評論を? と考えるのはじつは間違いで、歴史家もジャーナリストも「事実を解明する」という点ではまったく同じ仕事をしているのであり、異なるのは扱う材料が現代のものか過去のものかだけである。しかも、現代はあっという間に過去になる。たとえば、二〇二三年十二月一日は北朝鮮が国連を無視し自前の軍事衛星を運用開始した「歴史的な日」になったが、そのニュース記事は一日経てば「過去の歴史の記述」になる。
そして私の作品の愛読者ならご存じのように、日本の歴史学はさまざまな要因があって真実を伝えるという役割をじゅうぶんに果たしていない。だからこそ私はこの『逆説の日本史』を書いているのだが、それは現代マスコミにもあてはまることで、この連載でも折に触れて時事問題を扱ってきたことはご存じのとおりである。
最近、過去のマスコミ評論を振り返って『消えゆくメディアの「歴史と犯罪」』(ビジネス社刊 共著者門田隆将)という本を上梓したので、こういう問題に興味のある方はそちらを見ていただきたいが、今回話題にしたい時事問題とはウクライナ戦争でもハマスとイスラエルでも無く、日本大学と宝塚歌劇団の問題である。
この二つの問題について私は直接取材してはいないので、あくまで一般的な組織論として歴史を踏まえ分析したいのだが、たとえば日本大学のように腐敗した組織を改革せねばならないときにもっとも適任なのは、どのような人物か?
「経営立て直しの名人」などでは無い。それよりも大切なことは、そうした組織の腐敗とはまったく関係の無い清廉潔白な人物である。腐敗の原因はさまざまあるが、もっとも大きな要因はカネである。だから理想を言えば、大学から給料をもらわなくてもじゅうぶんに生計が立つ人物がいい。カネで篭絡される心配が無いからだ。それが絶対条件で、「経営立て直しの名人」などは後から雇えばいいのだ。
そもそも、トップが警察に逮捕されるような組織は下も腐っているケースがじつに多い。刑事罰をくらわなくても、甘い汁を吸い組織を食い物にすることはできる。そしてそういう支配体制が長年続いたということは、真面目で気骨ある職員はすでに粛清されているということだ。
では、今度は「腐敗している側」から考えてみよう。言うまでも無く、こうした人間が一番困るのは清廉潔白な改革者であり、その人物に知名度があればさらにまずいということになる。なぜなら、改革にマスコミが注目するからだ。当然、こうした改革者はどんな手段を取ってもいいから追放すべきだ、ということになる。
こうしたとき、マスコミがバカであれば話は簡単だ。たとえば、必要な情報を改革者まで伝達しないで、一方では「こんな重大な事態が起こっている」とリークする。マスコミは当然改革者に真偽を確かめる。改革者は清廉潔白だから「聞いていない」と正直に答える。
そこで、今度は「あの人は事態を隠蔽していた」「そもそもガバナンス能力が無い」と声高に言い立てる。それをまたバカなマスコミが「こういう意見もある」という形で「客観報道」する。じつに単純な情報操作で、引っかかるほうも引っかかるほうだが、現実の日本のマスコミはこのレベルである。