これらは、電鉄グループのビジネスモデルによって生まれた本業とは関連性の無い子会社に共通する問題であり、これも一つの「歴史」であることはおわかりだろう。野球のオールドファンなら、かつて阪神タイガースもこれに基づく批判にさらされたことをご記憶かもしれない。「阪神球団の幹部は、客さえ入れば優勝などしなくていいと思っている」「阪神球団の幹部は、経費節減のため選手の給料を下げることしか考えてない」などという批判である。
ただ、この点あきらかに球団は変わった。あたり前の話だが、野球の専門家の意見を多く取り入れるようになった。それが昨年の日本一に繋がったのだろう。それはもちろん球団自身の努力にもよるが、多くの熱心なファンが球団の体質改善を望んだからだろう。やればできるのである。
宝塚歌劇団の問題の根底にも、これがあると私は思う。「思う」というのは、私自身が関係者などに会って綿密に取材などはしていないから、断定はできないということである。ただ、日大の澤田副学長の問題と同じで、公表されている情報を基に分析することはできる。
あくまで「断定」はできないから「感想」と言っておくが、たとえば二〇二三年十一月十五日付の『日刊スポーツ』の「劇団員転落死 報告書公表」という記事には、歌劇団に依頼された弁護士による調査チームの報告として「死亡した女性の額にヘアアイロンが当たったのが上級生による故意か不注意かを判断するのは困難」と述べていた。宝塚歌劇団木場健之理事長(当時)がこれを公式見解として報告した記者会見の模様はワイドショーやニュースでも大きく取り上げられた。
この件について私の「感想」は、「ああ、この人たちはショービジネスに関してはまるで素人だな」である。その理由は次回述べよう。
(第1407回へ続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2024年2月2日号