トップはやる気の無い「ド素人」
宝塚歌劇団の不祥事も、じつはこの根底に「天下り」問題がある。宝塚歌劇団はその親会社である阪急電鉄が作った。では、なぜ作ったかと言えば、根本は「日本デパート史」における電鉄系デパートのビジネスモデルの一つだからである。
前にも少し述べたことがあるが、日本の百貨店つまりデパートの始まりは呉服屋の転業だった。三越、大丸、高島屋、伊勢丹、松坂屋と並べてみれば一目瞭然だろう。これらはもともと老舗だから繁華街の真ん中に本店がある。これに対して、電鉄会社が対抗して新しいデパートを作ろうとした。彼らは鉄道会社である利点を生かし、自分の電鉄のターミナル駅にデパートの本店を置いた。東急、西武、小田急、京王あるいは阪急、阪神、南海、西鉄と列挙すれば、これも一目瞭然だろう。
電鉄系の場合は、沿線の開発ということもきわめて重大である。沿線に多くの人々が住めば、会社全体の収益も沿線周辺の地価もデパートの利益も上がるからだ。そこで電鉄会社は沿線に、言葉は悪いが「人寄せパンダ」を作ろうと試みた。ビジネスモデルとはこのことだ。
最大の成功例は、阪神電鉄による甲子園球場自体の建設と、その後に阪神タイガースを創設し甲子園球場を本拠地としたことだろう。もし阪神沿線に甲子園球場が無かったら、今頃阪神電鉄はどうなっていたか、考えてみればわかる話である。だが問題は、こういう経緯があるため、こうした「人寄せパンダ」のトップが電鉄本社からの「天下り」になってしまったことだ。電鉄グループの子会社であるからである。
ここからは具体的会社名を述べず一般論にさせていただくが、こうした「天下り先の民間の組織」は、「官庁の天下り先」よりも問題が多いことが少なくない。たしかに官庁の天下り先もトップが「天下り組」であるため、その組織の生え抜きがいくら出世してもナンバー2にしかなれず、組織全体の士気が上がらないという問題はある。しかし、官庁からだと「天下り元」でのトップ、つまり事務次官経験者が関連業界に天下ることもあり、当然業界の事情に詳しく仕事の出来る人間だから役に立つこともある。
しかし、民間組織だとこれが難しくなる。それでも銀行など金融機関ならまだいい。経理部門ならどんな会社にも存在するからだ。じつは、私の親戚にも銀行マンから機械メーカーに行き、経理を担当して見事にその会社を発展させた人間がいる。
しかし、これが電鉄のビジネスモデルだとそうはいかない。電鉄マンになりたくて入ったのに、その出世競争に敗れトップにもなれなかった人間の行き先が、まったく未経験の関連性の無い職種になるからだ。つまり、その業界についての「ド素人」が「不本意」のまま行かされることになる。
そうした人間がどのように考えるか、容易に想像できるだろう。やる気など出るはずが無い、もともとこうした組織のトップになりたくて会社に入ったわけでは無いからだ。考えることは、できるだけ「大過無く」職務を務め上げ、退職金を満額もらうことだろう。組織の改革など「危険」なことには手を染めない。百歩譲ってそういう気持ちがあったとしても、もともとド素人なのだから実行することは不可能である。