「最初に大きな嘘をつくと、その後起きることが本当にみえる」
山田孝之・竹村武司・松江哲明という座組に、松江とは旧知の仲だった山下敦弘が加わった。
物語は、山下が監督を務める映画の撮影中、突如スランプに陥った山田孝之が清野とおるのマンガ『東京都北区赤羽』に出会って感銘を受け、自分の軸を取り戻すため赤羽に移住するというもの。山田はそれを山下に伝え、赤羽での自分を撮影してほしいと依頼する。
「山田孝之が“役者としての軸を見失ったから赤羽に住みたい”と最初に常軌を逸した大きな嘘をつく。そうすると、その後に起きることが全部嘘でも本当にみえる。嘘の世界で起きた本当のことなので。だからその嘘の強度を上げるために、山田くんに振り回される人が必要だということで、松江監督が山下さんをキャスティングしました」(竹村)
「俺は監督というより“監督役”でしたね。回す役。撮影自体は松江くんのジャッジで進めていった感じでした。竹村さんとはこの時、初対面だったんですけど、“テレビの人”というのが第一印象。やっぱり映画人とはちょっと空気が違う。ある意味フットワークが軽い。映画の脚本家ってもう少し重い感じがするんだけど、竹村さんは空気というかノリを作っていく人だなと思いました」(山下)
フェイクドキュメンタリーの撮影は「ロケバラエティ」
この番組について2人とも口を揃えるのは、「ロケバラエティ」のような手法で撮影されていたということだ。
「山田くんは実際に赤羽のアパートに住んでいたので、撮影日は山田くんの部屋が集合場所。『今日の場所はどこだっけ?』『今日はどうしようか?』なんて言いながら準備して、『じゃあちょっと移動しますか』って撮影を始める感じでしたね」(山下)
「薄いんですけど、一応台本はありました。僕は『日本一セリフが読まれない脚本家』って昔言われたことがありますけどね(笑)。なんとなくこのシーンではこんなシーンが撮れればいいなっていうゴールはあります。
山に喩えると、ここの地点や山小屋を通過して、最後頂上に登りましょうという設計図みたいな台本ですね。それをどう登っていくかは山田くんが現場で自分で決めていく。1回降りたり、ヘリコプターみたいに一気に登ったり。だからほぼ現場の演出家ですね。松江さんはそれを一歩引いて見て、時に指示を出す。だからやっていることは本当にバラエティロケですよね」(竹村)
「僕らが決めていたのは、セリフは一切決めないということ。あと、なるべく次の動きが不確実な人が混じっているほうが現場では何かが起こりやすい。だから、一度カメラを回し始めると大体30~40分は回し放し。ほとんど撮り直しもなく一発OKでやってましたね」(山下)