京葉線の通勤快速と各駅停車の所要時間は、東京駅―蘇我駅間で約20分も異なる。一方、新宿線の新宿駅―本八幡駅間の所要時間は各駅停車と急行で約12分の差しかない。
わずか10分程度だったら許容できると考え、新宿線の急行削減に不満は抱いても抗議の声をあげるほどではなかったのかもしれない。
京葉線も新宿線も東京と千葉とを結ぶという役割は同じだが、東京との距離や所要時間は大きく異なるので同列に論じることはできない。
とはいえ、千葉県に住み東京へと通勤する”千葉都民”が東京と千葉とを結ぶ鉄道に対して関心が薄かったことは事実だろう。
2023年3月のダイヤ改正では抗議らしき抗議がなかったにも関わらず、東京都交通局は約1年で再び新宿線の急行を増やすダイヤ改正を実施する。一体、なぜなのか。
「もともと新宿線は急行運転ができる配線構造になっており、それを活用しないのはもったいないという意見がありました。そのため、なぜ急行の利用率が低いのかを検討したのです。そこで行き着いたのが、『急行と各駅停車の接続がないので、乗り継げないこと』が原因ではないかという考えに至りました。今春のダイヤ改正では、急行の運転本数を増やすのと同時に大島駅で急行と各駅停車が乗り継げるようにダイヤ作成を工夫しています」(同)
東京都交通局はダイヤを改正して、9時台に本八幡駅を出発する各駅停車1本を急行へと変更する。さらに、帰宅時間帯となる17時台から19時台の新宿駅発の急行は1本から4本へ増発する。東京都交通局のダイヤ改正はJR東日本千葉支社とは対照的な内容と言えるだろう。
緩急接続の利便性向上による効果
急行などの速達列車と各駅停車の乗り継ぎは、緩急接続と呼ばれる。急行や快速は短時間で遠くまで行くことができる。そのため、沿線の末端へ行くにも所要時間が短くて済む。そうした所要時間を短くすることで利用者を増やし、住宅地の造成・分譲が期待できる。それは沿線人口の増加という効果をもたらし、それに呼応して商業施設がオープンするなどの経済的な恩恵も出てくるこうした自社の沿線開発にも大きなメリットがある。
急行や快速、各駅停車といった多くの列車種別を走らせている私鉄は、鉄道の運輸収入だけではなく、沿線開発による不動産事業なども収入の大きな柱になっている。
そうした事情もあり、ターミナル駅から離れた”遠い駅”でも所要時間を短縮する速達列車を運行して利便性を保ち、なんとか不動産価値を高めようと工夫してきた。