ライフ

【逆説の日本史】袁世凱政権の基盤を強化することになってしまった日本の「愚行」

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十三話「大日本帝国の確立VIII」、「常任理事国・大日本帝国 その5」をお届けする(第1409回)。

 * * *
 あらためて、第一次世界大戦において日本がドイツに勝利した直後の情勢を整理しよう。当時の日本の最大の外交課題は、日露戦争戦勝つまり「十万の英霊、二十億の国帑」を費やして獲得した「満蒙特殊権益」は絶対に確保していかねばならない、というものだった。満蒙とは満洲と内モンゴルを指し、特殊権益とはロシアから奪った南満洲鉄道に関する権益、そして関東州つまり旅順・大連および遼東半島の統治に関する権益が主なものである。

 では、なぜそれが「絶対」なのかと言えば、十万人の犠牲によって獲得したものだからだ。つまり、「多くの犠牲者によって成し遂げられた成果は、どんなことがあっても守らねばならない」という日本人固有の絶対的信仰に基づくものである。だからその方針は絶対に変えることができず、簡単に言えば「日本は満洲を守るためなら、どんな無謀なことでもやるべきだ」ということになり、その方針を妨げる中国、イギリス、アメリカといった大国を敵として戦った。

 もちろん、そんな戦争は止めるべきだとか、中国と友好を保とうなどという少数意見もあったのだが、すべて「人間のクズの意見」として無視された。「犠牲者の死を無駄にしてはならない」という絶対的信仰に逆らうものだからだ。そのため戦争を止めるに止められず、約三百万人が犠牲になるという惨憺たる結果を招いた。

 すると、昭和二十年以降つまり戦後は「三百万人の犠牲によって成立した平和憲法をなにがなんでも守りぬくのだ」ということになった。「犠牲者の死を無駄にしてはならない」からだ。現在の日本国憲法は、私が常々指摘しているように欠陥憲法である。なぜならば、行政府が憲法に忠実であろうとすればするほど憲法第九条が障害になって、国民を軍隊の力で守れないからだ。論理的な考え方をすればこれ以外の結論は無いはずだが、ずっと私も、そして他の改憲論者も「人間のクズ」扱いされてきた。なぜだかおわかりだろう。

 戦前、「満洲は日本の生命線」というキャンペーンを張ることにより陸軍の大応援団となり、結果的に日本を滅亡に追い込み三百万人を死なせた「戦犯」の一員の朝日新聞は、戦後は「平和憲法こそ絶対」というキャンペーンを繰り返し、真実を報道するのが報道機関の役目であるにもかかわらず「北朝鮮は平和国家」などというデタラメの情報を繰り返し伝達し、その結果日本全土は北朝鮮のミサイルの射程に入ってしまった。

 どうしてこんなバカなことになるかというと、繰り返すが日本には「犠牲者の死を無駄にしてはならない」という絶対的な信仰があるからだ。もちろん、どんな国家にも民族にもそうした傾向は少なからずあるだろう。しかし日本の場合はそれが極端で、生きている人間の生命を無視しても死者は鎮魂されなければならない、という強い思いがある、「いま生きている人間より、死者の思いが大事」なのである。それが絶対的ということだ。

関連記事

トピックス

渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
つげ義治の漫画を原作とした映画『旅と日々』
「なんでもアリな気分になれたら」つげ義治マンガを原作とした映画『旅と日々』、監督・三宅唱氏が語った“つげ作品の魅力”と“ロケ現場秘話”
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン