しかし、近代において鉄道と美術はともに役立つ技術として導入されたという共通点がある。歴代の天皇が乗車するために製造された御料車は”動く美術品”とも呼ばれるなど、装飾や調度品に至るまで華やかで品格のあるもので統一された。
東京駅や軽井沢駅、日光駅など皇族の利用が多い駅には貴賓室が設けられていた。貴賓室は室内そのものが芸術品と表現できるほど、壁・床・調度品などがまばゆい光を放つ。
150年という歳月が経過したことで、鉄道と美術が密接に歩んできた歴史関係は忘れられつつあるが、こうした歴史を再照射する動きも出ている。
例えば2023年には、東京駅構内に所在する東京ステーションギャラリーで”鉄道と美術の150年”という展覧会が実施された。同展覧会では、鉄道と美術が時に実利を超えて近代国家の体裁を整えるために必要だったと説明している。
東京駅の貴賓室に描かれた壁画は和田英作の手によるものだが、迎賓館が開館50周年を記念して期間限定で特別公開する東の間も和田が壁画を担当した。また、迎賓館の花鳥の間に飾られた七宝焼の装飾品は日本画家の渡辺省亭と七宝作家の濤川惣助の共同作品だが、濤川惣助は御料車の装飾も手がけている。
迎賓館は2009年に本館・正門・庭園などが国宝に指定されたが、構造材に使われているレールも国宝という扱いになっている。目で見ることや手で触れることは叶わないが、国宝に指定されたレールは日本全国でもここだけだろう。
迎賓館本館の構造材に使用されているレールも、鉄道と美術が密接な関係だったことを物語っている。