懸念事項は栄養素の減少だけではない。
「いまの日本人が好む果物の特徴は糖度の高さに加え、『見た目がきれい』であることです。外側の皮が少し傷ついているだけでも売り物にならなくなるため、虫食いや瑕疵を防ぐという名目で農薬の散布量が増えており、残留農薬の問題も懸念されます。
また、品種改良のために薬剤を使って糖度を増やすと、植物はバランスよく成長しない。甘みが増す半面、ほかの栄養素が減っています」(久保さん・以下同)
消費者のニーズに応え、口当たりがよくなった結果、体に悪影響を及ぼすデメリットも増しているのが現実なのだ。
“鉄分の王様”は過去の称号
果物と同じく、土から育つ野菜もまた栄養価が大きく減っている。
「栄養価が高い野菜ほど相対的に土壌の変化の影響を受けやすい。例えばほうれん草の鉄分は70年前の6分の1。1950年に100gあたり4050μgあったにんじんのビタミンAも2000年には1500μgに減っています」
ほかにも文部科学省のデータによればビタミンCはほうれん草は4分の1以下、小松菜も半分に、トマトの鉄分に至っては5分の1近くに減っている。
「また、野菜全体からポリフェノールやリコピン、アントシアニンに代表される抗酸化物資『ファイトケミカル』が減っていることも私たちの調査によって明らかになりました。
そもそも植物がファイトケミカルを作るのは、害虫などから身を守ることが目的です。農薬で害虫がいなくなったいまの環境下においては、ファイトケミカルは必要ないため、生成されなくなるのです」
化学肥料で育った野菜は栄養価以外にも懸念点があると久保さんは続ける。
「化学肥料を使って栽培した野菜は呼吸器疾患やがん、アルツハイマー型認知症などのリスクを上げるとされる硝酸イオンの含有率が倍増します。特に土から養分を吸収しやすい葉物野菜からは大量に検出されています。野菜の栄養価が下がったからといって食べる量を増やしても、健康が担保されるどころか、かえって病気のリスクを上げることになりかねません」