「でも、エッセイって自慢か自虐にしか振りようがないと私も思ってるんです。私はどっちかというと自虐で書くんですけど、自慢と自虐は表裏一体だと思っていて、実は何かを自慢している可能性も……ないですね。でもそれは自慢することが何もないからで、自虐を装いつつ、ここの部分をお伝えしたら楽しんでもらえるかな、みたいな気持ちがなかったら書かないわけで……難しいですね、やっぱり表裏一体ではあります」
連載分のエッセイだけでもじゅうぶん面白いのに、それぞれにみっしり追記があり、おまけのコラムも各章末に追加する充実ぶりで、サービス精神がすごい。
「それは担当編集者が……。読者の方に楽しんでもらわないといけない、という気持ちがすっごく強くて、『ジャンプマインド……!』(編註・本の版元は『週刊少年ジャンプ』を出している集英社)って私は思ったんですけど、編集者に言われて書いているうちに、どんどんページが増えてしまいました」
都心のホテルのラウンジでマイグラスを持参しワインを楽しむ男性を目撃した日のことを描いた「ゴージャスの実相」の回では、追記の分量が本文を超えている。三浦さんのワインの先生が、わずかなヒントから彼が飲んでいたワインの銘柄を推理し当てていく過程は探偵小説のようにスリリングだ。
「あれはワインの先生がどうかしていてですね(笑い)、ものすごい調査能力を発揮されたので、これはやっぱり読者にお伝えしなきゃ、と。先生にワインに関する部分を確認してもらったら、『読者に伝わらないかもしれないから、もうちょっと書き加えるわ』ってどんどん膨れ上がっていったんです……!」
コロナ禍でも「生活はほとんど変わらなかった」
三浦さんのエッセイの愛読者なら、三浦さんが「運動嫌い」「風呂嫌い」であるのを知っている。この本でもそのふたつの「嫌い」は揺るぎない。運動嫌いなのに月山に登りたいという野望を抱き、2時間半のルートに8時間かかり、汗だくで山小屋に泊まることになっても風呂に入りたいと言わないのを「山に向いてますよ」と登山の先生に褒められる巻末の「嫌い」二段重ねのエピソードにしびれる。
時折、近くに住む両親や弟も登場、彼らとの関係性も面白い。