三浦さんのお父さん(三浦佑之・千葉大学名誉教授)は『古事記』研究の第一人者なのだが、娘の目からは、やりたくないことはしない、そのためには「周囲から期待されないよう、ダメ人間ぶりを貫く」人として書かれてしまう。
「できると思われると余計なことを言いつけられて『古事記』を読む時間が減るのが嫌なんだと思います。ふつうは少しぐらい自分を飾ろう、できる自分を演出したくなると思うんですけど、全然そういうところがない。すごく自己中心的ですけど、それが極まっているのが面白くもあります。『またかよ、この古事(記)オタが』って感じですね」
一番身近なところに、こんなレアなジャンルのオタクがいたとは。三浦さん自身、漫画をはじめ数々のオタクでもあり、いったん好きになるとなかなか飽きたり、嫌いになったりすることがないそうだ。この本の中でもぬいぐるみや「EXLIE一族」[(C)三浦さん]への偏愛がふんだんにつづられている。
掲載されているのは30代向けのファッション誌で、ふつうなら「ファッション」と「オタク」は対立的に考えてしまうところ、三浦さんは「おしゃれな人は『おしゃれオタク』」で、「オタクという意味では、漫画ばっかり読んでる私も、おしゃれな人も、同じなのだ」と書いていて、なるほどそうかもしれないと思う。雑誌の巻頭ページにすんなりなじむのも、同じオタクだからなのか。
今回の本に収められたのは2019年6月からのほぼ4年分なので、コロナ禍にも触れられている。
「人と会わないことでキツかったり、お仕事でつらい思いをしたりする方もいらっしゃったと思うんですけど、私はふだん家で仕事していてあまり外にも出ないので、生活はほとんど変わらなかったですね。大変な思いをしている方が大勢いるときに、私のようなブラブラしている者まで深刻な感じで書いてしまったら、なんだか息が詰まるじゃないですか。
逆にあまりチャラチャラしすぎても、みんなが大変な時に何してんだってなるから、ちょうどいいバランスってどのあたりだろうと考えつつ、いつも通りでいいかと思って書きました」
【プロフィール】
三浦しをん(みうら・しをん)/1976年東京都生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。『ののはな通信』で2018年島清恋愛文学賞、2019年河合隼雄物語賞を受賞。2020年から直木賞の選考委員を務めている。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年5月23日号