──やりがいがある分、とても難しそうですね。
「もう、責任重大ですよ(笑)。名作だとか、いいお話だとかじゃなくてもいいんです。本を通して想像の世界をワーッと広げ、なにか子どもたちの心や記憶、柔らかい感性に残るものを手渡してあげたい。読み聞かせのやり方は人それぞれで、声色を変え、顔の表情も使って伝える方法もあります。私は顔は見せず、声色もできるだけつけない。できるだけ『黒子』に徹することにしていました。私を通すことで、想像の世界を狭めたくなかったんです。新型コロナの緊急事態宣言が出る前も、公園で子どもたちを集めて本の読み聞かせもしましたが、子どもたちの目が輝いていましたね」
──想像する「余白」があるのは、本の大きな魅力のひとつです。
「私自身、小さいときに想像や空想の世界に入って遊びまわり、その世界に救われたことがたくさんある。今を生きる子どもたちにも、日々暮らしていて嫌な気持ちになったり、つまずいたりすることがそれぞれにある。そんなときは、想像の世界にどんどん逃げればいいし、そこで心を回復させてあげればいいと思うんです。それこそ、大人たちが『はるちゃん』を見てふっと現実を忘れ、息を抜いたり元気を取り戻したりして、また次の日からがんばるのと同じですね」
──いわば、大人たちのオアシスでもあった『はるちゃん』から約20年、中原さんが演じる役柄も変わってきたと思います。今後、取り組んでみたい役柄やお仕事はありますか。
「今は歳を重ねた女性の役自体が少ないですよね。海外のドラマや映画のように、中高年の女性が活躍したり、大人の女性に光を当てたりする作品が、もっともっと増えてくれたらいいなと思います」
──確かに、大人の女性が共感できたり、勇気づけられたりする作品が少ない。最近は、それが顕著に感じます。年齢を重ねた女性たちは、今、どういった作品を見ているんでしょう。
「かつては、向田邦子さんが描かれる世界など、大人たちがたくさん登場して、大人が共感できる作品がいろいろとあったように思います。悩んだり失敗したりするのは、若者たちだけじゃない。立派な大人だってちゃんと悩むし、つまずきもする。『大人も失敗していいし、また取り返せるんだよ。もっと楽になっていいんだよ』と、伝えられる作品がやれるといいですね。あぁ、やっぱり『はるちゃん』がやりたいってことなのかな(笑)」
ドラマ『はるちゃん』から22年。20代だった若き女優は公私に渡って様々な経験を積み、大きくなって第二の故郷に場所に帰ってくる日は近いのかもしれない。
中原果南さんが出演する舞台 大森カンパニー×長江健次 大森カンパニープロデュースvol.48 長江健次還暦記念公演『更地に、イモ欽Special』は7月12日(金)から18日(木)、LIVE HOUSE神戸チキンジョージで行われる。【公式HP】https://www.omoricompany.com/special
(了。第1回から読む)