プロ野球をはじめ様々な競技で導入が進む「ビデオ判定」。現在、プロ野球では監督による「リクエスト制度」が導入されている。ビデオ判定の際の場面が球場の大型スクリーンに映し出される時、判定に疑義を持たれた審判はどんな気持ちでいるのか。38年に及ぶプロ野球審判人生で3001試合に出場した橘高淳氏に、スポーツを長年取材する鵜飼克郎氏が聞いた。(全5回の第2回。文中敬称略)
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2010年に「本塁打判定」限定で導入されたビデオ判定の範囲は年々広がっている。
2014年からは本塁打以外のフェンス際の飛球、2016年から本塁クロスプレーにも導入され、2018年以降はストライク・ボールやハーフスイングの判定などを除くほぼすべてのプレーについて、審判の判定に異議がある場合、監督はビデオ検証要求(リクエスト)ができるようになった。
接戦でのセーフ・アウト判定は勝敗を左右する。選手にしてみれば打率や打点、防御率などの記録にも影響し、それが年俸査定に響くこともある。「ビデオ検証に基づく正確な判定」は総じて監督・選手たちに納得感を与え、歓迎されている。
実際、リクエスト制度が導入されたことで、誤審によって試合が左右されるケースは大幅に減った。映像確認に委ねることで、監督や選手が審判に執拗に抗議をする場面もなくなった。試合時間の短縮に繫っていることも間違いない。
だが見方を変えれば、審判の「権威」は揺らぎ、その存在すら否定されかねない変更でもある。極端にいえば審判は“仮判定”をする役割で、「最終判定」を下すのは機械ということになるからだ。しかもプロ野球の場合はビデオ判定がひとつの“ショー”になっている面もある。判定が出るまでの間は球場の大型スクリーンに検証映像が何度も流され、ファンが歓声を上げ、あるいは大きな溜め息を漏らす。
明らかな“誤審”であれば、その数分間、判定を下した審判は針の筵だ。審判の立場からはどう感じるのだろうか。2022年、38年間のプロ野球審判生活に幕を下ろした橘高淳が言う。
「マイナス面はないと思っています。あとは我々の心持ちの問題です。いい意味で安心感と自信を持ってジャッジできるようになればいいが、“どうせビデオがあるから”と甘える審判が出てきたら残念なことです。あとは判定が覆った場合に、検証映像を反省材料にできるかどうかですね」
リプレー検証映像は試合翌日の朝、全審判に連絡網で送られてくる。各自が確認し、事案によっては映像を見ながら、“審判がなぜあの位置に立っていたのか”といった反省会も行なわれるという。リクエスト制度は審判の技術向上にも一役買っているのだ。