ちなみに第一話「死んだ山田と席替え」の末尾には山田考案の〈最強の配置〉と題した座席表が載り、誰を誰の隣にし、前列に誰が座ると最強か、全員の隠れた特性や悩みまで熟知しているのが山田だった。
その山田は医学部志望で勉強もでき、ラグビー部をケガでやめてからは校外でバンドを組み、金髪と左頬のほくろがトレードマーク。第四話では文化祭の出し物として各人がカツラと付けぼくろで山田に扮し、客に飲み物やお菓子を提供する、〈山田カフェ〉が企画されるほど、愛されてもいた。
むろん全ては二Eだけの秘密だ。よって山田と話す時は〈おちんちん体操第二〉と、帰宅部〈川上〉考案の合言葉を言う決まりで、〈山田誕生日選手権〉と称して彼の喜びそうな音源を持ち寄ったところ、7人中3人がAVを選ぶなど、〈アホすぎるだろ、お前ら〉と山田でなくとも言いたくなる。
男子校という磁場に発生する引力
「今回は性別も年齢も全員一緒だったので、予めエクセルでプロフィールを作り、性格付けもしっかり言語化した上で書き始めました。
この中にも深夜の教室で山田がひとりDJ的なことをする場面がありますけど、私も昔からよく芸人さんの番組を聴いたり、お笑いが無意識に内面化された世代ではある。友達との会話も基本的に冗談だらけだったりするんですけど、意外と小説中の会話って本題しか話さないじゃないですか。
ともすればプロットのためだけの会話も多いので、もっと身内っぽい冗談とか、くだらないことしか話してない感じも含めて、現実の会話に近づけたかった。特に男子高校生の教室という磁場はその手の引力が発生しやすいので(笑)」
〈山田の死の真相を記事にするってのはどうよ!?〉と言い出した新聞部の迷探偵コンビ、〈泉〉と〈倉持〉の活躍により一度は謎を解くかに思えた物語は、山田が助けた猫に泉が〈猫語〉で話しかけた辺りから迷走し、やがて思ってもいなかった結末へと読者を運んでゆく。
その間、山田の一言に救われた〈和久津〉や、〈山田はちゃんと死ぬべきだったと思う〉と言う川上らの間には微妙な温度差が見え隠れし、山田にまつわる記憶も35人いれば35通りあった。