エピソード2:「西安事件」で夫を救った宋美齢

 1936(昭和11)年12月12日、西安事件が起きた。東北軍総指揮官の張学良と西北軍総指揮官の楊虎城が、蒋介石を拉致監禁した事件である。

 蒋介石は2人に共産軍討伐を命じたが、なかなか動かなかったため、しびれを切らして西安へ督促に行ったところを捕えられた。2人は蒋介石に対して、「共産党と和解する」「国民政府を改組する」「民主諸党派と一致協力して日本軍と戦う」「言論の自由」など、8項目にわたる要求を出したが、蒋介石は頑として拒否した。

 南京の国民政府は、政府軍を派遣して西安を攻撃し、併せて空爆することを検討したが、宋美齢が蒋介石の身の安全を考えて強硬に反対し、張学良と交渉する道を探った。そして、オーストラリア人ジャーナリストで蒋介石の顧問となっていたウィリアム・H・ドナルドを派遣して、張学良に書状を手渡した後、交渉の余地ありとみた宋子文が西安に入り、交渉を開始した。次いで、宋美齢も西安に乗り込み、蒋介石の解放交渉を進めた。中国共産党は周恩来、葉剣英を西安へ派遣し、国民政府の蒋介石、宋子文、宋美齢との間で会談し、合意した。

 12月25日、蒋介石は解放されて、宋美齢、ドナルド、宋子文は張学良を伴い南京へ帰還。張学良は拘禁され、楊虎城はのちに一族郎党全員が処刑された。

 この事件によって、「国共合作」(第二次)が実現し、国民党と共産党、民主諸党派との間で一致団結して抗日戦争に臨むための「抗日民族統一戦線」が合意された。

 事件のあらましは以上の通りだが、西安へ飛行機で到着したときの宋美齢の写真がある。

 チンチラの毛皮のコートを着て、コックとお手伝い、医師を従えての大名旅行で、飛行機のタラップを降りる彼女に手を差し出しているのはドナルドである。

 宋美齢は気丈にも、夫の危機に際して圧倒的な力を発揮し、どのような手段を使ってでも救い出そうとする気迫に満ちている。愛するが故というよりも、自分の所有物を棄損する相手は決して許さないという気概がみなぎっているように見える。それが中国女性の強さの秘密でもあるかもしれない。

 とにかく、蒋介石は宋美齢のおかげで助かった。そしてこれまで以上に頭が上がらなくなったことは想像に難くない。

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