米国への「別れの挨拶」──そして台湾へ
宋美齢は、トルーマン大統領の声明を聞いて、大きな衝撃を受けた。米国が蒋介石・国民政府を見捨てたのも同然だったからだ。即刻、蒋介石の待つ台湾へ戻ろうと決めた。
2年近く暮らしたニューヨークを離れる直前、宋美齢は米国のラジオ放送を通じて、全米国民に「別れの挨拶」をした。
〈米国の温かい対応に感謝いたします。[中略]私たちは[アメリカの]ご支援があろうとなかろうと戦います。私たちは失敗したのではありません。数百万の同胞たちが今も全力で長期戦を戦っています。私たちは少しでも息が残っていれば、そして、神への信仰心があれば、私たちは奮闘していきます。一日でも一時間でも、自由のために戦うのです。私は数日内に中国へ戻ります。南京、重慶、上海あるいは広州へ戻るのではなく、我が国の人々がいる台湾島へ参ります。台湾は私たちのあらゆる希望のトーチカです。我が国を蹂躙する異質の民に抵抗する基地なのです。〉
(『宋美齢伝』林家有、李吉奎著、中華書局、2018年))
かつて「一つの中国」を目指して、「異質の民」=共産党勢力を打倒しようとしていた国民党が、今や共産党と手を結ぼうとしている。国共間の合従連衡の関係は、それほど根が深いということだろう。
【プロフィール】
譚璐美(たん・ろみ/璐は王偏に「路」)
作家。東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大訪問教授などを務めたのち、日中近現代史にまつわるノンフィクション作品を多数発表。米国在住。主な著書に『中国共産党を作った13人』『阿片の中国史』『帝都東京を中国革命で歩く』『中国「国恥地図」の謎を解く』など。最新刊は『宋美齢秘録 「ドラゴン・レディ」蒋介石夫人の栄光と挫折』。