セルフジャッジが前提のゴルフにおいて、プレー中の選手がルールの適用を迷ったりした際に頼るのが「競技委員」だ。時には選手から異議を唱えられることもあるが、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)競技委員の門川恭子氏は「ゴルフの審判は競技委員ではなく、ルールブックです」と言う。どういうことか。スポーツを長年取材する鵜飼克郎氏が聞いた。(全4回シリーズの第3回。文中敬称略)
* * *
2012年からJLPGAの競技委員を務める門川恭子に「競技委員をしていてつらいことはあるか?」と訊ねると、「そう感じることは多いです。自分がつらいというより、選手たちに対してですが」と答えた。
門川に限らず競技委員はプロゴルファー出身者だ。一打一打に集中したい状況の中、プレーを中断させて状況を質問する。それが選手にとって重い負担になることは痛いほどわかるという。
なかでも競技委員が“悪者”に思われてしまうのはスロープレーの対応だ。アウトオブポジション(前組との間が開いている状態)の定義は明確に決まっており、競技委員はそれから遅れていないかの確認を行なう。スロープレーが改善されなければ罰打がつく。
「ペナルティにならないように進行を促すわけですが、選手のメンタルの部分もわかるので、穏やかに“頑張ってペース上げていきましょうね”と言うようにしています」
それでも競技委員たちは、無線で「第△組が遅れているから声を掛けてください」「前の組と2ホールも開いたからイエローカードを出します」「アウトオブポジションなのでプレー時間の計測に入ります」と進行を促される。
「競技委員は罰打を科すためにプレー時間をコントロールしているのではありません。スタート時の間隔を保ちつつ、出場する全選手が公平な条件でプレーさせるためです。時間をかける選手と、時間を守ってプレーしている選手がいたら公平性が担保されなくなる。だからスロープレーには厳格である必要があります」