日々の暮らしや家族に起こった出来事を、不幸も含めて笑い飛ばすようにつづる作家・岸田奈美さん。新作エッセイ『国道沿いで、だいじょうぶ100回』にも注目が集まる。中学生の時に父親が急逝、母親は車椅子ユーザー、弟はダウン症で知的障害があり、祖母は認知症――と波乱万丈の人生を生き抜いている岸田さんだが、昨年末に起こったある騒動では、挫けそうな気持ちを味わう。そんな中でも、社会について気づいた視点があったと話す。
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「ずっと住みたいと思っていた兵庫県西宮市に今年引っ越しました。それまでは京都府中京区河原町という、東京でいう渋谷のようなところに住んでいたのですが、オーバーツーリズムでバスには絶対に乗れないし、うに丼の価格は1000円から6000円になるほどで、観光客は喜べど地元民の生活はどんどん破壊されている感覚があったんです。でも立地はいいし、引っ越しはお金がかかるし、インバウンドはいつか収まるかなぁ、と様子見していたんです。いつかみんな飽きて奈良に行くはずだ、と(笑い)。
それが、とあることがきっかけで西宮に引っ越したんですけど、西宮は亡くなった父の出身地であり、生涯愛した街。父は西宮で会社を立ち上げて、リノベーションの会社を経営していました。未だに父の愛したお店や景色が残っていて、父の知人から『この店の、このおやつが好きでよく買ってたよ』と知りようもなかった姿を教えてもらったりして。生前の父はこんなことを考えていたのかなって、知ることができるのがすごくうれしくて、幸せで。
京都と比べたら人も少ないし、西宮に引っ越せたことは不幸中の幸いだったんですが、きっかけとなる出来事が本当に地獄でした……」(岸田さん・以下「」同)
口では「大丈夫」と言っても限界があった
その出来事とは、昨年12月に岸田さんが住む部屋に起こった漏水。しかも岸田さんは3日間風邪で寝込んでいたという、なんともしんどいときにそれは訪れた。
「突然、雨を超えてスコールかと思う量の水が、天井から降り注いできたんです。それでリビングと台所が水浸しになって! まず絶版の『大長編ドラえもん』を、浸水していない書斎に投げるように避難させましたよ。私にとってはそれが一番大事だったんですね。パソコンとハードディスクもとにかく守りました。でもハードディスクって動かすと壊れるってことを知らなかったので、避難させた結果壊れましたけど(苦笑)。