1998年に運転免許の自主返納制度が導入されたとき、返納の件数は年間で2596件だった。その後、年々、自主返納制度の利用者は増加、2019年は60万1022件を数え、以後は減少して2023年は38万2957件となっている(警察庁調べ)。運転免許の自主返納が珍しくなくなり、家族にも促されて返納する人が続出したのち、後悔している当事者が少なくないことも分かってきた。ライターの宮添優氏が、生活に支障が出ている自主返納後の高齢者たちについてレポートする。
* * *
埼玉県内で、高齢ドライバーによる重大事故が起きてしまった。84歳の高齢男性が運転する車が、青信号の横断歩道を渡ろうとしていた小学1年生の女児をはねたのだ。女児は今なお意識不明の状態だといい、このニュースが報じられるや否や、高齢ドライバーは免許を返納すべき、という論調が盛り上がっている。
テレビニュースでは軒並み、いかにして高齢者に「免許を返納させるか」について取り上げている。危ないから乗るなはダメ、順序だって説明する、孫をつかってお願いする……などなど、あの手この手で、高齢ドライバーから免許を取り上げる“手法”を丁寧に紹介するなど、時間をかけて報じている。
確かに、高齢ドライバーによる重大事故が相次いでいる印象が強い。日本の交通事故件数が最も多かった2004年の95万2720件から、2023年には30万7911件まで減少している(警察庁調べ)ことにくらべて、高齢ドライバーによる事故件数がそこまで減っていないため、そのように感じるのだろう。東京・池袋で2019年に発生した、高齢ドライバーが引き起こした母子死亡事故も、鮮明に記憶しているという人も多いはずだ。そういった感覚に従ってのことだろう、実際に免許を返納する高齢ドライバーも増えている。では、返納した元高齢ドライバーたちは、今どのようにして生活しているのか。
「75歳で免許返納。私は現在76歳ですが、昨年まで市内の温泉でパートをしていて、車で通っていたんです。今年になり、免許を返納してからは、パートに行くときは市が走らせているコミュニティバスを利用していました。でも、始業時間、就業時間にちょうどいいバスがなく、シフトに入れない日々が続いた挙句、パートはやめてしまった。年金だけじゃ生活できず、はっきり言って、このままお荷物になるのなら、早く死んだほうがいいと思ってます」