自動車などの運転に関する相談窓口の短縮ダイヤルを紹介するリーフレット[警察庁提供](時事通信フォト)

自動車などの運転に関する相談窓口の短縮ダイヤルを紹介するリーフレット[警察庁提供](時事通信フォト)

 こう話すのは、九州北部の過疎地域に1人で暮らす末永より子さん(仮名・76歳)。路線バスが自宅近くを走っていたのは、もう何十年も前の話だ。バスが撤退し、タクシー会社は潰れ”交通難民”向けにと市が走らせていたコミュニティバスも減便の憂き目にあったが、そもそも最寄駅までは末永さんの足で歩いて2時間以上。その最寄駅すら、2時間に1本程度しか列車は来ない。だから自家用車は必須だった。だが、メディアで連日のように報じられる高齢ドライバーによる事故を見て、息子や娘、親族からも「もう運転はやめてほしい」と懇願されたのだ。

「人生100年時代といわれるし、体もまだピンピンしているのに、このまま20年以上、移動の自由もなく生きなきゃいけないのかな、と思いますね」(末永さん)

半年後、日付や時間が分からなくなった

 東北地方の過疎地域に暮らす高齢の両親がいるという、都内在住の会社員・野老伸一さん(仮名・50代)も、免許を保持していた父(80代)に免許返納をお願いした。両親の移動には、父親が運転する車が必須だったが、父親もまた、高齢ドライバーが起こした事故のニュースを見ており「仕方ない」と免許を返納した。そして、その影響はわずか半年後に思わぬ形で訪れた。

「運転をせず、外に出なくなった父に、それまで全く予兆もなかったのに、認知症のような症状が出始めたんです。その時、母が初めて教えてくれたんですが、免許返納について、父の中では相当なショックと葛藤があったそうです。車の運転が好きな父でしたし、家族でドライブに何度行ったかわからないくらい、父にとって車は重要でした。だから、免許返納をと言われ、自分自身を否定されたような気持ちになっていたというんです。免許返納から1年も経たないうちに、日付や時間がわからなくなり、1人で食事や排泄もできなくなった。正直、こんなことなら多少の不安があっても、運転をさせ続けるべきでした」(野老さん)

 野老さん自身も、高齢ドライバーによる事故のニュースを何度も見ている。高齢の父が運転することで、万が一、誰かを傷つけてしまうのではないかという不安はあった。それでも、今は結果的に後悔していると打ち明ける。その後、認知症の初期症状が出始めた父親は施設に入居し、過疎地域に1人、高齢の母親だけが取り残された格好になった。

「母はもともと運転ができない。だから、買い物とか通院の際には、近くに住む親族にお願いをしており、以前より家族の負担が増えた。メディアは、高齢者は免許返納を、としか言わない。その後を経験していないからでしょう。元気な高齢者から免許を取り上げるより、もっと安全な車を作るとか、そういう議論がなされないと、我々だって、父のように運転する、移動するという生きがいを失ってしまうんではないでしょうか。少なくとも、父への行政的なフォローなど全くありませんでした」(野老さん)

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
「ぞくぞくする…」父娘でSMプレイ、女王様役の田村瑠奈被告がスカーフで父・修被告の首を…証人尋問で明かされた異様な親子関係【ススキノ事件・第2回公判】
NEWSポストセブン
『VIVANT』の続編の構想があるという
【3部作の構想も】『VIVANT』続編が水面下で始動か 2026年放送に向け来年夏にクランクイン予定、TBS最新鋭スタジオの目玉に 
女性セブン
かねてよりフランス移住を望んでいたという杏(時事通信フォト)
【パリ五輪】キャスターをめぐる戦い「吉田沙保里の起用を見送った日テレ」「パリに住む杏をキャスティングしたNHK」…“銭闘”を余儀なくされるテレビ局
女性セブン
中国でも活躍
長澤まさみ、中国進出大成功で大手電気自動車メーカーCM起用 それでも超えられない“中国人がもっとも愛した日本人”
女性セブン
容疑者
《SMの女王様コスプレをした娘を送迎》田村瑠奈被告(30)の父親が回想した“あの夜”「荷物が増えてるけど、どうしたの?」「拾った」【ススキノ事件供述調書】
NEWSポストセブン
今回の事件で宝島さん夫妻が死亡した後、5月15日に真奈美容疑者が会社の代表取締役に就任していた。
【那須2遺体】宝島さん長女・真奈美容疑者(31)が韓国人元夫とのロサンゼルス生活で味わっていた“挫折”「内縁夫の逮捕後も、何食わぬ顔で親の会社を引き継ぎ……」
NEWSポストセブン
沢田研二、全国ツアー東京公演に妻・田中裕子が来場し会場にどよめき いつもとは違う“センター席”に堂々と座った裏事情
沢田研二、全国ツアー東京公演に妻・田中裕子が来場し会場にどよめき いつもとは違う“センター席”に堂々と座った裏事情
女性セブン
北川弁護士(神戸大学のHPより)
【関西検察の神】北川健太郎弁護士(64)が酒に酔った部下を…準強制性交等容疑で逮捕「男性記者に風俗店“取材”を勧め、女性記者にボディタッチ」「北川さんは性犯罪にも熟知しており立件されないと踏んでやったのでは」
NEWSポストセブン
愛子さま
愛子さま、高校時代に密かに開設していたインスタグラムの“プライベートアカウント” 写真が全削除された事情
女性セブン
田村瑠奈容疑者と容疑者親子3人が暮らしていた自宅
「次は自分がSになって可愛がってやる」田村瑠奈被告(30)と被害男性の“クラブで出会った夜” 父・修被告の調書で「今回は責める番だ」【ススキノ事件・第2回公判】
NEWSポストセブン
King & PrinceとNumber_iが出演のTBS『音楽の日』 “乗り込む気満々”のファンに赤坂周辺は厳戒態勢、本人たちは関係良好をアピール
King & PrinceとNumber_iが出演のTBS『音楽の日』 “乗り込む気満々”のファンに赤坂周辺は厳戒態勢、本人たちは関係良好をアピール
女性セブン
歌舞伎界の将来を支える立場に就いているのに…
【愛人と半同棲報道】三田寛子に怒られた中村芝翫 国立劇場養成所“指導者”就任をアピールできない理由
週刊ポスト