検査でがんが見つかれば、「すぐに治療しなければ」と思うはず。しかし実際には、がんの部位や進行度、タイプ、年齢、体調、ライフスタイルなどによっては、治療がかえって悪影響を及ぼすケースがある。「治療しなくていいがん」「放っておいた方がいいがん」とは、どういったケースなのだろうか。【前後編の後編。前編から読む】
過剰な検査が無駄な治療を生む一方で、その精度を生かし、適切に取り入れて「見守ること」も立派な治療として発展しつつある。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「欧米ではがんを直ちに切除せず、血液検査や超音波検査、CT、MRI検査などを定期的に受けて観察を行う『監視療法』が広く取り入れられています。甲状腺と前立腺に加え、乳管など乳がんが発生した場所にとどまっている『非浸潤性乳管がん(DCIS)』や膀胱がんにも監視療法を取り入れられるのではと注目されています。
実際、アメリカで複数の研究を解析した結果によれば、リスクの低いDCISの患者を対象に約6年間追跡調査したところ、手術した場合としなかった場合で、生存率は変わりませんでした」
東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授の中川恵一さんは「腎臓がんの中にも“見守り”の対象になるものがある」と言う。
「がんの治療で有名な米メイヨークリニックの報告によると、発見時の腎臓がんの大きさが2cm以下なら、転移がある割合も、術後3年後に転移が見つかる割合もゼロだということがわかっています。監視療法は転移などのリスクがあるので、充分に注意を払って行う必要がありますが、腫瘍が小さい人、高齢者や持病などで手術を受けるリスクが高い人にとっては、積極的に検討すべき選択肢になるといえます」(中川さん)