ネット上では「都知事選掲示板ジャックに反対します」とする有志による批判運動と署名も展開されている。すでに2万8千人(6月21日時点)が賛同した。
個人で面白がる分には構わない、ネットでネタとして楽しむのも自由だ。それでもこうした流れにどこかで「それはおかしい」と声を上げなければ、失われた三十年は四十年どころか五十年、ずっと続くことになる。
「恐ろしい時代」――80代の彼女の記憶、その感覚は正しいと思う。筆者も一都民として「恐ろしい」と思う。この東京都知事選のポスター掲示板、ちっとも面白くなんかなく、恐ろしい。筆者はこのコラムを起こすにあたり彼女から頼まれた。「どうか『こんなことはおかしい』と伝わるように」と。また「お願いだから選挙には行ってください」とも。
そう、都民は選挙に絶対行こう、都民の半分しか行かない選挙、それもまたおかしい。そしてもう一度、嘲笑でなく政治というものをみんなで考え直そう。「その程度」しか持ち得なかった私たちだが、「おかしい」と誤りを正すための声を上げることはできるはずだし、私たちそれぞれの一票は無駄なんかじゃない。もう左右の問題でなく、すでに上下の問題である。
東京都知事選のポスター掲示板の有り様──これは都民の、いや私たち日本人の危機である。その端緒である。大げさでなく私たちが本当の意味で苦しむことになるであろう、恐ろしい時代に向かう、その象徴になりかねない「恐ろしい」有り様である。
日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。