「続く不調」と「受診」はワンセット
胃がんや大腸がんではおなかの張りや、腹痛、嘔吐、便秘、下痢などさまざまな症状が出るとされる。東邦大学医療センター大森病院消化器センター外科教授の島田英昭さんは、「消化器系のがんは食事での違和感がサインになる」と話す。
「男女ともに罹患者数、死亡者数の上位に入る胃がんは、慢性的な不快感、胸焼け、食欲不振といった初期症状が現れます。しかし、“なんとなく胃がもたれている”“食欲がわかない”“疲れやすい”“体重減少”など、がんでなくとも起こる症状なので、放置してしまう患者さんが多いのです」
体重減少は消化器系のがんの特徴的な症状のひとつとされるが、島田さんは「早期がんの特徴というよりは、ある程度進行しているがんの特徴といえる」と続ける。
「がん細胞は栄養分として糖分が不可欠なので、体の中に進行がんがあると自分の栄養分を確保するために相対的に血糖値を上げます。また、体に蓄えている脂肪を糖分に変えて栄養分にする。ゆえに、食欲低下の影響も加わってどんどん体重が減っていくことになります。つまり、体重減少はがんがすでに進行し始めているということ。
食欲不振や胃もたれといったよくある症状であっても、不調な状態が1〜2週間続くようなら、クリニックを受診した方が安心です。1か月放置するのは危険といえます。逆に、がん以外の症状であれば多くの場合、1週間以内には自然に軽快すると思われます」
東ちづる(64才)は胃の痛みや貧血、嘔吐の症状で病院を受診し、当初は胃潰瘍と診断されたものの、念のため受けた精密検査で胃がんが判明した。幸いにも初期の段階だったため内視鏡手術で切り取ったというから、いかに受診が大切かがわかるだろう。
コロナ禍以降、咳の症状に敏感な人は増えているが“ただの風邪”と放置すると肺がんを見過ごしてしまうことがある。
「肺がんは早期発見が難しいがんといわれます。代表的な症状である咳や痰を風邪だと思って市販薬などでやり過ごしてしまうことで発見の遅れにつながっているともいえます。咳や痰が2週間以上続く場合や、痰に血が混じるといったことがあれば受診をおすすめします」(佐藤さん)
がんは、日常のちょっとした不調ではなく、「別の病気」という形でサインを出すこともある。
「40〜50代で逆流性食道炎がある人は、逆流症状のない人に比べると10〜20年後に食道がんになる確率が高いことが知られています。医療用語では随伴症状、リスク因子といって、病気そのものが予兆になる。膠原病などの自己免疫疾患も同様です。進行がんがあると免疫系の異常を惹起して自己組織を攻撃し、免疫疾患を起こすことがあります。免疫系に異常が出ていたら、がんの疑いがないか注意しましょう」(島田さん)
女性のがんとして注意すべき子宮がんについて、佐藤さんが言う。
「子宮がんには、主にヒトパピローマウイルスの感染が原因で発生する子宮頸がんと、50〜60代の患者が最も多い子宮体がんがあります。子宮体がんは多くが子宮内膜から発生しますが、エストロゲンという女性ホルモンが過剰に分泌されて子宮内膜の発育を促し、子宮内膜増殖症を経てがんになる。子宮内膜増殖症と診断されたら治療はもちろん、定期的に経過観察してください。また、更年期に罹患するかたが多いので、不正出血も更年期の症状のひとつと見逃してしまう傾向がある。自己判断は禁物です」