全国約10万7000人の医師、歯科医師が加入する全国保険医団体連合会の本並省吾・事務局次長が語る。
「医療機関のなかには、レセコンを導入して電子カルテやレセプトの入力を行なっているが、患者の個人情報が流出しないようにネットにつながず、月1回の医療費請求の際にレセプトの情報を記憶媒体(CD-ROM)に入れて焼いて郵送しているケースがかなりある。だが、今年4月からはその電子データをオンラインで送信しなければならなくなった。厚労省は、すでにデータは入力されているから事務が効率化できると考えているようだが、医療機関側では新たなリスク・コストが経営を圧迫する。システムの全面改修が必要になったケースもある」
しかも、マイナ保険証・オンライン資格確認システムにWi-Fiは使えない。NTTのマイナ専用の光回線・光ファイバーを医療機関内に敷設しなければならなくなった。医療法でサイバー対策も義務化され、高額な機器を導入して防衛しないといけない。
「それなら今まで通りCD-ROMに入れて郵送したほうがコストがかからないし安全でしょう。なのに過疎地域や中山間地で開業していても、わざわざ全部に光回線を引かせた。古い建物に入っているクリニックなどは、コンクリートの壁をぶち抜かなければならないから、工事費に300万円くらいかかったケースはざらにあります。
パソコンもレセコンと別に、マイナ保険証専門のハイスペックなものを買えと言われた。回線、パソコン、ルーターと一式を新たに揃えるのにどれだけ費用がかかるか。電子データをCDで郵送する方式で全く困らないのに、余分な負担です」(同前)
来年4月までに続々消える
このレセプトのオンライン申請が義務化されたのは今年4月。この3~4月から医療機関の廃業が急増したのは、義務化前に駆け込みで辞めたものと考えられるのだ。
手書きのレセプトやCD-ROMに焼いて請求していた医療機関の場合、申請すれば1年だけオンライン請求を猶予される。前出のB院長のように4月までの廃業が間に合わなかった医療機関は、当面は紙やCD-ROMのレセプトで請求しながら、今年12月の保険証廃止のタイミングなど1年の猶予期間中に続々と廃業することが予想されるのだ。
今後どれだけの医療機関が消えていくのか。恐ろしい数字がある。全国保険医団体連合会は昨年10月、記者会見を開いて「オンライン請求義務化反対」を訴えた。