吉田さんが振り返る「殺人事件」の分岐点
これまでのインタビューで吉田さんは、節子さんはしっかりもので、家のことなどは甘えきりだったと明かしている。しかし、晩年の節子さんは吉田さんと2人でいる時には、様子が変わっていたという。
「あるとき、朝起きたらハグしようとか、寝る前はハグしようとか、そういうこと言い始めたのね。全然そういうタイプじゃなかったのにね。もしかしたら、あれが本音だったのかもしんないよね」
記者が実際にハグをしていたのか、と尋ねると少し照れたように吉田さんは答えた。
「しないと納得しないから。朝、会社行く前にハグ、寝る前にハグってことです。あるときなんかさ、さっきまで口論していたのにね、寝るからハグしてって言われたって、そんな急に無理じゃない。あれをもうちょっと子供をあやすようにやっていれば、良かったのかな。しっかりもので、俺が甘えてばかりだったけど、本音は寂しがり屋だったのかなってね、思う時もあります」
長年寄り添った妻を殺害するという、何があっても越えてはいけない一線を越えた吉田さん。視力をほとんど失い認知症を患う節子さんの介護を一人でやり、思い詰めた末の犯行だったことは本人も何度が述べているが、家族にも精神科医にも相談できなかったことも悲劇の一因なのだろう。
「去年の7月の段階で節子を診てくれる神経内科の先生を断ったことがあるんですね。1回来てもらって、次の予定が7月25日になったんです。ところが、節子が嫌がって先生が来ても『受けない』って言い始めたので断った。周囲の助けという意味で、あれがね、すごい別れ道なんだね。他でも話しましたが『分岐点』だったと考えています」
またしても大粒の涙が頬を伝う。