「タバコって蓋に書いてありましたね」
先輩警察官が渡された免許証を持って、パトカーに戻った。免許証番号で身元を照会するのだ。その間、新人らしき警察官は車の周りを一周、運転席の横に来ると「トランクを開けて下さい」と告げた。
「だからさ、暑いんだから勝手に開けてよ」
「いえ、開けて下さい」と、新人警察官は譲らない。
カンカン照りの中、幹部は外に出てトランクを開けた。入っていたのは大小の段ボールと紙袋だ。新人警察官の目が光る。
「自分で開けてよ」という幹部に、新人は「開けて下さい」。
小さい方の段ボールをあけた。中から出てきたのはまん丸いスイカだ。
「これ、何ですか」と、彼は面食らったようだ。見りゃわかるだろう。
「スイカだよ」、そこには友人からもらったスイカが入っていたのだ。
幹部が大きなダンボールに手をかける。出てきたビニールプールみたいな代物に新人警察官が目を真ん丸に見開いた。
「これ何ですか?」、訝し気に聞く新人。
「ウォーターベットだよ。知らないの?」という幹部に、彼は黙り込み、紙袋に目をやった。幹部が紙袋の口を大きくあけて見せた。入っていたのは線香やろうそくなど墓参りの道具。新人がふっとため息をついた。何か出てくると期待したのだろうか。
そこに先輩警察官が戻ってきた。運転免許証と幹部の顔を見比べ「どこの組ですか」と聞いてくる。「かなり昔の前科までしっかり出ていたようだが、運転免許証の照会では組まではわからないらしい。説明するのも面倒なので、車の後部座席のポケットに入れていた代紋のステッカーを差し出して、ここですよと見せた」と話す。先輩警察官は「あぁ」と頷くと、運転免許証を返してパトカーに戻っていくが、新人警察官は幹部の顔をジィっと見ると、助手席側に向かった。
車内を一通り見回すと、グローブボックスを開けろという。入っていたのはハサミと丸い缶。新人警察官がハサミを手に持ち、チョキチョキと動かした。
「これも凶器になりますね」
「どこにでもあるフツーのハサミだよ。それが凶器って」と幹部。
墓参りの時に使おうと入れてあったが、100円ショップで売っているようなハサミが銃刀法違反になるとは聞いたことがない。さすがにそれを凶器にするには無理がある。新人は丸い缶に手を伸ばす。