日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。最終回は、SNSで33万人以上にフォローされる「広島育ちのバズる駐日ジョージア大使」ティムラズ・レジャバさんにうかがった。【全4回の第4回。第1回から読む】
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レジャバ大使が赴任する前、多くの日本人に名を知られていたジョージア人と言えば大相撲の力士たちだろう。黒海、臥牙丸、栃ノ心。相撲界の歴史に名を刻んだ方々だ。大使館の壁には栃ノ心の現役時代のポスターが貼ってある。
そうだ、昔から不思議に思っていたのだけれど、外国出身の力士はなぜあんなに日本語がうまいのだろう?
「相撲の動きと言葉が一体化しているからじゃないかなあ。たとえば、押し出そう、というときに、この動作を言葉にすると押し出しだ、ということが頭に刻まれて、体の動きと合致する。心にフィットする。それを繰り返すことで、とても自然な日本語が身に付くんじゃないかと思います。
彼らは自分の人生をかけて相撲をやっているから、いろんな取り口や技術を覚えていく中で『右四つを狙う』とか『はたき込む』とか、勝つための思考が言葉と結びついているんですよね。気持ちがちゃんとそこにあるからうまく聞こえる。そんなに難しいことを言っているわけじゃないけど、体と心と言葉ががっちり連動しているから、流暢に聞こえるんだと思います」
明晰な分析に頷かずにはいられない。大使の、人の心をとらえる言語化の巧みさにあらためて感じ入る。
言語化といえば、大使とジョージアのファンを増やしたのはやはりSNSでの発信だろう。投稿するうえで、心がけていることとは──。
「自分の投稿が注目されているとしたら、理由の一つは『浮いているから』だと思います。社会的に知名度のある方はSNSで気持ちを表さない傾向がありますが、自分は隠さずに感情を出している。だから際立って見えるんでしょう。
本当の自分を見てもらいたいので、しっくりこない言葉は使いたくない。状況や、そのときの心理に一番近い表現を類語辞典で探したりもします。読む人に訴えかけるために、大げさというか、意識して強い言葉を使って書くこともありますね。私はジョージア政府から給料をもらっている外交官なので──日本の税金で働いていたら叩かれるのかもしれないけれど──ジョージアの外務省に所属している人間だから、感情を表出させた投稿をしても、まあいいかなと思っています。
ただ、いつも注意しているのは『見渡さなければならない』ということ。誰かを嫌な気持ちにさせたり傷付けたりしないよう、ポストする前に第三者の意見を聞くこともあります。間違ったイメージを与えたくないですし、言い回しひとつでも印象はすごく変わりますよね。気軽な投稿もありますけど、限られた文字数で伝えるためにいろいろ工夫しています」