だが仕事に戻る道中、彼は自分が少し疲れていることにも気づくのだ。〈どこをとってもほどよいことばかりで、店にいる間、そのことばかりを考えてしまい、ずっと感心させられていた〉〈ほどよさも、ほどよくあってほしいものである〉と。
「疲れた時って情報の多いもの、食べたくないじゃないですか。そういう話って誰が読んでも共感しやすいと思うし、世間では言語化されていないあるあるとか、面白い視点をひとつ見つけると、書ける感じはします」
また「『許す』をテーマに生活してみたら」や、人生初の電動自転車や鍼やヘッドスパまで、何でも試してみる行動力も著者の特徴で、その分「思いつきで函館に行こうとしたら、失敗した」等々、失笑談も数知れない。
「責任感、ないっすよね。予定もちゃんと立てないし、旅行でも何でも思い立ってすぐやるのが好きなんです。ネガティブに見られがちなのは意味なくテンションを上げるのが苦手なだけで、基本はめっちゃポジティブだし、楽観的な人間です」
僕を知らない人も楽しめる日常の話
面白いのはそうした自身の日常をどこか客観視し、一種の虚構として切り取るような、岩井氏の目線だ。
「ああ、それは確かにありますね。自分を俯瞰して、面白がっちゃうってことは、自分から自分を切り離しているんでしょうし、それがポジティブさに繋がっている気もします。例えば僕なりの正義みたいなものがあって、これは酷いと思った時に、自分が何に怒ったかを言語化しておけば怒りを保存できるし、原因を突き詰め、考え抜くことで、意味なく落ち込まなくて済みますから。
それこそ『うわっ、オレ、スッゴク怒られてんじゃん、この歳で』って怒られてる最中に思ったり、その自分を頭の上辺りから見ている自分がいて、その見たまんまをできるだけ読みやすく書きたい。要はこねくり回した文章が苦手なんですよ。実は本もほとんど読まないし、妙に凝った文章を見ると、うわ、読みづら~、もっと読みやすく書きなよって思っちゃう。
でも僕の本は別に文章で売れてるわけじゃないと思うんです。単に話題だからとか、写真集と同じですよ。プロの作家さんが大勢いるのに、こんなに売れるのはさすがにおかしいでしょ」