大混戦の自民党総裁選の裏では、「決選投票」をにらんだキングメーカーたちの暗躍や旧派閥の駆け引きが活発になってきた。過去にはそんなキングメーカーたちの思惑を覆す「下剋上」で総理が誕生したことがあるが、その理由を辿れば、今回もまさかの逆転が起きる可能性が見えてくる。
麻生氏や菅氏が自在に動かせる「駒」
決選投票に進むことが有力視される小泉進次郎氏のバックには菅義偉・前首相や森喜朗・元首相がつく。それに対し、麻生太郎・元首相は麻生派の河野太郎氏を支援する一方、同派大幹部の甘利明・前幹事長がニューフェースの小林鷹之氏を推すことで進次郎氏に流れそうな若手議員票を取り込み、「河野でも小林でも、決選投票に残ったほうに票を一本化して進次郎に対抗する目算だ」(同派議員)とされる。
茂木派からは茂木敏充・幹事長と加藤勝信・元官房長官、岸田派では林芳正・官房長官と上川陽子・外相が出馬に動いて票が割れそうだが、ここにも思惑がある。
「岸田政権で3派連合を組んでいた麻生派、茂木派、岸田派は決選投票で手を組む可能性が高い。そこで菅さんは自分に近い加藤と上川の出馬を後押ししている。茂木派と岸田派の票を分裂させ、その一部を決選投票で進次郎に上乗せできると考えている」(閣僚経験者)
麻生氏や菅氏らから見れば、総裁候補たちはいわば自在に動かせる「駒」にすぎないのだ。
自民党ではそうして総裁選を派手に演出しながら、最後はキングメーカーたちが自分に都合の良い「次の総理」を決めてきた。では、過去にキングメーカーの思惑や派閥の談合を覆すまさかの下剋上で総理・総裁が誕生した時はどうだったのか。
【田中角栄vs福田赳夫(1972年)】
8年間の長期政権を誇った佐藤栄作・首相の退陣表明を受けた1972年の総裁選で「本命」と見られていたのはキングメーカーの岸信介・元首相が率いた旧岸派の後継者である福田赳夫氏だった。当時、官邸詰め記者として取材した政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「佐藤首相と実兄の岸元首相は、『福田が先』と佐藤派の田中角栄ではなく、自分たちと同じ官僚出身の福田を推した。福田も角栄に負けるとは思っていなかった」
だが、角栄氏は“親分”の佐藤氏による切り崩しを受けながらも佐藤派内で勢力を伸ばし、1回目の投票で福田氏を抜いて僅差の1位になると、決選投票では出馬していた大平正芳氏、三木武夫氏の票を取り込んで福田氏を破り、総理の座を得た。