大小かかわらず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子を揃えられるのは0.5%に過ぎない。
約束通りに実現するプロジェクトはほとんどないということだ。実際に数十年の歳月と1兆円を超える莫大な予算が投じられていながら、ほとんど成果を出せずに終わりに向かっている政府の巨大プロジェクトがある。
世界中のプロジェクトの「成否データ」を1万件以上蓄積・研究するオックスフォード大学教授が、予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かした『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
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1983年、日本政府は有望な巨大プロジェクトに着手した。このプロジェクトは知恵の象徴とされる文殊菩薩にちなんで、「もんじゅ」と命名された。
もんじゅは完成すれば、原子力発電所として消費者に電力を供給するとともに、新型原子炉である高速増殖炉として原子力産業に燃料を供給することになる。国内資源に乏しく、エネルギー問題につねに悩まされてきたこの国で、もんじゅは発電に使った以上の核燃料を生み出す、夢の原子炉として大いに期待された。
1985年に建設が始まり、約10年後の1995年に発送電を開始した。だが同年に火災事故が発生し、直ちに運転停止となった。事故後の隠蔽工作が発覚して政治スキャンダルに発展し、そのせいで運転停止は長期化した。
2005年に最高裁がもんじゅの設置許可を有効とする判決を下し、運転再開が認められた。だが2008年に予定された再開は、2009年に延期された。
2010年にようやく試運転が始まり、2013年からの本格運転をめざした。だが2013年5月、原子炉の安全確保に欠かせない重要機器を含む、1万4000点の機器の点検漏れが見つかり、再開はさらに遠のいた。
その後も保安規定違反が相次いで確認された。これらを受けて日本原子力規制委員会は、日本原子力研究開発機構(JAEA)がもんじゅの運営主体として不適当であると宣言した。この時点でもんじゅに投じられた国費はすでに120億ドルに上り、運転を再開して10年間稼働させるにはさらに60億ドルの費用が必要とされた。折り悪く2011年の東日本大震災時の原発事故により、国内世論は反原発に大きく傾いていた。政府はとうとうさじを投げ、2016年にもんじゅの廃止を発表した。
もんじゅの廃炉コストは、30年間で約34億ドルと推定されている。もしこの見積もりがほかの見積もりよりも正確だとすれば、プロジェクトは60年の歳月と150億ドルの資金を費やしたあげく、生み出した電力はほぼゼロ、ということになる。
もんじゅは極端な例だが、例外ではない。いや、例外にはほど遠い。原子力発電は私のデータベースで最もパフォーマンスの悪いプロジェクトタイプの1つで、コスト超過率は実質ベースで平均120%、工期の超過率は平均65%である。おまけにコストと工期の両方にファットテールのリスクがある──つまりコストと工期の見積もりを20~30%どころか、200~300%、ときには500%以上超過する可能性がある。もんじゅが華々しく証明したように、生じ得る損失に上限はほぼない。
問題は原子力だけではない。ほかの多くのプロジェクトタイプも、これよりいくぶんましというだけだ。もんじゅのような巨大プロジェクトが一般に設計、実行される方法にこそ、問題がある。この問題を理解すれば、矛盾するようだが、大きいものを小さくつくることができる。小さいどころか、レゴのブロックのようにささやかなものを使って、驚くほど大きなことができる。