1つの大きいもの
莫大な規模のプロジェクトを設計し、実行する方法に、1つの大きなもの、あるいは巨大なものをつくる方式がある。
もんじゅは1つの巨大なものだ。ほとんどの原子力発電所がそうだ。巨大な水力発電ダムや、カリフォルニアなどの高速鉄道、巨大ITプロジェクト、高層ビルもだ。
こういうつくり方をすると、1つのものだけをつくることになる。そしてそれは定義上、唯一無二のもの、仕立て用語で言えばオーダーメイドになる。標準の部品や既製品は使わず、前例を単純にくり返すこともしない。
すると必然的に時間がかかり、複雑になる。たとえば原子力発電所は無数のカスタム化されたパーツやシステムでできていて、発電所全体が機能するためには、その1つひとつが単体としても、全体としても機能しなくてはならない。
複雑なカスタム性一つとっても、この方式がいかに困難かがわかる。だがそれをさらに難しくしている要因が、ほかにもある。
第一に、原子力発電所をすばやく建設して、しばらく運転し、何が機能するのかしないのかを確かめてから、その教訓を活かして設計を変更する、などということはできない。そんなことをしたらコストもリスクも高くなりすぎる。つまり、「実験」──優れたプロジェクトを特徴づける「エクスペリリ(実験+経験)」の半分──ができない。となれば、一発で成功させる以外に選択肢はない。
(エクスペリリはラテン語の動詞で2つの英単語、エクスペリメント(実験する)とエクスペリエンス(経験する)の語源で、「試みる」「試す」「証明する」などの意味がある)
第二に、エクスペリリの残り半分の、「経験」についても問題がある。原子力発電所を建設する人は、経験をあまり積んでいない。なぜなら過去に建設された原発は少ないし、1基を建設するのにとてつもなく時間がかかるからだ。だが実験ができず、経験が乏しいにもかかわらず、一発で成功させなくてはいけない。これは不可能ではないにせよ、きわめて困難である。
それに、たとえ多少の経験があったとしても、この特定の原発を建設したことはないはずだ。わずかな例外を除けば、それぞれの原発は、実際の立地に合わせて、時代とともに変わる技術を用いて設計される。もんじゅと同様、唯一無二のカスタム品だ。
カスタム化されたものは、仕立てのスーツと同様、つくるのにコストと時間がかかる。たとえばスーツづくりの経験がほとんどない仕立屋が、オーダーメイドのスーツを一発でうまく仕立てる必要があるとしたらどうだろう? よい結果に終わるはずがない。
ただのスーツでもこれなのだから、数十億ドル規模の複雑きわまりない原発の難しさは計り知れない。