巨大だと「完成」するまでお金を生まない
実験と経験が不十分だと、プロジェクトを進めるうちに、予想以上に困難で高くつくことがわかってくる。思わぬ問題にぶつかり、うまくいくはずの方法が失敗する。
おまけに、試行錯誤することも、計画を修正してやり直すことも許されない。これはオペレーションの専門家が「ネガティブラーニング(負の学習)」と呼ぶ現象である。学習すればするほど問題が見つかり、それに対処することがますます困難になり、コストもかかる。
第三が、経済的負担だ。原発は100%完成するまでは電力を生産できない。9割方完成していても、まったく使い物にならない。つまりこの原発につぎ込まれた莫大な資金は、除幕式を終えるまでの間は、何の便益も生まないのだ。
そして、カスタム性と複雑性、実験と経験の不足、ネガティブラーニング、一発ですべてを成功させる必要性を考えれば、それは非常に長い年月になる。こうしたすべてが、原発建設の惨憺たる実績のデータに表れている。
そして最後に、ブラックスワンを忘れてはいけない。どんなプロジェクトも予測不可能で衝撃的なできごとの影響にさらされやすく、その可能性は時間の経過とともに高まっていく。したがって、完成に膨大な時間がかかる「1つの大きいもの」は、不測の事態に翻弄されるリスクが必然的に高い。
もんじゅに起こったのが、まさにそれだった。プロジェクト開始から四半世紀以上が過ぎ、まだ運転準備が完了していなかったとき、大震災による津波が福島原発を襲った。そしてその結果起こった事故のせいで、世論が反原発に傾き、ついには政府を動かして、もんじゅは廃炉されることになったのだ。
1983年当時、こんな展開を誰が予見できただろうか? だが実行に数十年かかるプロジェクトでは、不測の事態は必ず起こる。
これらの要因が積み重なるのだから、原子力発電をはじめとする「1つの大きいもの」型プロジェクトの実行に、とてつもない時間とコストがかかるのは、何の不思議もない。完成するだけでもすごいことだ。
【プロフィール】
ベント・フリウビヤ Bent Flyvbjerg/経済地理学者。オックスフォード大学第一BT教授・学科長、コペンハーゲンIT大学ヴィルム・カン・ラスムセン教授・学科長。「メガプロジェクトにおける世界の第一人者」(KPMGによる)であり、同分野において最も引用されている研究者である。『メガプロジェクトとリスク』などの著書、『オックスフォード・メガプロジェクトマネジメント・ハンドブック』などの編著多数(いずれも未邦訳)。ネイチャー、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、BBC、CNNほか多数の著名学術誌や有力メディアに頻繁に取り上げられている。これまで100件以上のメガプロジェクトのコンサルティングを行い、各国政府やフォーチュン500企業のアドバイザーを務めている。数々の賞や栄誉を受け、デンマーク女王からナイトの称号を授けられた。