先の商社マンが語る。
「はっきり言ってマクロな意味で『米不足』というほどではない。かなり地域格差、とくに都市部の一般消費者に限られているので政府も大規模な備蓄米の放出はないと考える。放出すれば新米が出回りきったあとに価格暴落の危険性すらある」
8月27日には坂本農水大臣が先の吉村知事の発言も含め「慎重に考える」と備蓄米放出に否定的な見解を述べた。もともと8月は米の供給が少なくなる上に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表や台風で「買い急ぎ」が局所的に加速したことも理由にあげた。
「それに現場(米農家)のためには、以前までの極端な安すぎる米が出回り、それを消費者が当たり前のように捉える風潮は変えたほうがいい。米は不足していない、むしろ米の価格が値上がりしているというのは現場の今後を考えれば、値上がりでなく適正価格に戻りつつあるだけ、と考えてもいいのでは」
コスパはリスクと紙一重
なんでもかんでも安すぎることが正義のような時代もあったが、100円ショップがいつのまにか「100円」の部分をスルーするようになり、激安を売りにする店舗がそれほど「激安」でなくなった現在、米もまた不作もあるとはいえ元に戻るということか。
1980年ごろまでか、思えば米はそんなに安いものではなかった。それよりもっと前の方々なら「お米が貴重品」だった時代の人もあるだろう。買い急ぎの高齢者の話が出たが、彼らにすればそれが当たり前、米がなくなるという恐怖は私たちのそれともまた違うのだろう。それでも、冷静になってほしいと思う。
先の米穀店の店主はこう語る。
「一部のスーパーや激安店はスポット買いで安値になったところを大量に買い叩いて客寄せに使っていた。もうしばらくは仕入れ値の安いバイヤーの相手はしないでしょう。さっきも言いましたが米の流通も本当にいろいろなんです。だから安すぎる米が不足しているだけ、と言ったのですが、新米が入ってくれば不足している地域でも徐々に解消されます。もちろん値段は高いかもしれませんが。でも、本来のお米の価格というか、いまでも安いとすら私は思っていますよ」
そして「宣伝ではないのですが、生活の知恵として」とこう続けてくれた。
「みなさんお忙しいでしょうし、量販店でお米を買うのも結構ですが、地元の米穀店ともお付き合いしておいたほうがいいです。少し高いかもしれませんが、主食と考えればね。それに自然のものですから、不作のときは今回以上に不足することだってあるかもしれません。米穀店も普段のお客様を優先しますから困ったときだけ、と言われても売れないことだってあります。それはどんな商売もそうでしょう。もちろんルートは米穀店だけではないので米農家さんと直接とか、ネットでも事前契約はできるはずですから、そういう日ごろの万が一への心がけが大切だと思います」