〈Iから、4月3日に少額手付(2000万円)で売買契約を締結し、公証人役場で、パスポートと印艦、印鑑証明書による本人確認を実施し、公正証書による認証(提示された偽パスポートによる確認でしかない)を示されて、I(の会社名)から転売する形で、偽E(本来の所有者ではない人物)から本件土地を購入すべく動き出すことになった〉
契約の中身は、I側が所有者であるEから土地建物を60億円で買い取る契約を結び、さらに「積水ハウス」がI側から当該土地建物を70億円で買い受けるというものだった。取引の手付金は総額14億円に及び、うち12億円が所有者のEに、2億円がIへと支払われることになった。ドラマで、所有者の尼僧から一度別の会社を経由して、「石洋ハウス」へと転売される形をとっていたことは実際の事件と酷似している。
「売買契約は4月20日に結ぶことに決まりました。積水側が案件の情報をキャッチしてから1カ月あまりで取引は急展開したことになり、数十億円規模の不動産取引を行うにしては、不用意な印象を受けます。
積水の社内ではIとE(実際は偽のE)との契約についての「稟議手続」が進み、4月17日には稟議書が作成され、同18日には当時の阿部俊則社長が〈視察物件の中に、検討中物件として、本件不動産を組み込むこともあわせて決定した〉と報告書にも記載されています。ドラマにもあるように“社長案件”だったんです。
そして報告書によると、直前にIの取引先会社名が微妙に変わっています。稟議書でその社名が鉛筆書きで修正されていたくらいです。これだけ大きな金額の取引で不自然な取引先変更について、誰も積水内で異論を唱えなかったことには驚きます」(前出・元2課担)
こうして史上最高額の地面師詐欺事件が起きたのだった。
(後編に続く)
◆取材・執筆/安藤海南男