報告書によると、積水側は5月中に〈複数のリスク情報〉を得ていたという。ドラマでも同様に、被害企業の取引担当責任者を演じる山本耕史のもとに、取引を警告する匿名の手紙が届くシーンがある。報告書にはこうある。
〈「真の所有者は自分であり、売買予約をしたり、仮登記を行ったことはないので、仮登記の抹消を要求する」との内容証明郵便が複数届いた。また、I(文書では実名。以下同)との取引に問題があると主張するブロー力一的人物が数人現れ、東京支社、東京マンション事業部への訪問、社長宛書状、本社への電話等を行った〉
しかし、これらの〈リスク情報〉は結果的に無視され、社内では〈取引を妨害したい者の嫌がらせ〉と受け止められた。これにより、積水側の取引への姿勢はより前のめりに。決裁の前倒しを地面師グループ側に持ち掛ける結果を招いたのはいかにも皮肉である。
「積水側が虚偽の不動産取引に巻き込まれたことをはっきりと覚知したのは、2017年6月9日。法務局から問題の不動産について『登記申請却下』の通知が届いたことで明らかになった。地面師グループと積水側との最初の接触から、わずか3カ月で55億5000万円をだまし取られる被害に遭ったことになる」(元2課担)
詐欺だと知った瞬間の山本耕史の演技さながら、「積水ハウス」での担当者らの間で激震が走っただろう。