日露戦争で日本に味方してくれたセオドア・ルーズベルト大統領は、モンロー主義を堅持すると言いつつも拡大解釈を始めた。この拡大解釈のことを「ルーズベルトの系論」と呼ぶが、具体的にはヨーロッパ諸国が中南米に干渉するなら武力に訴えても干渉を排除するというもので、そのうちに「向こうに非があるなら、世界中どこであれアメリカが武力介入してもよい」ということになった。

 アメリカは第二次大戦後しばらくのあいだ「世界の警察」と呼ばれていたが、その発祥がルーズベルトにあることはおわかりだろう。この姿勢を人々は「棍棒外交」と呼んだ。彼自身の言葉「Speak softly and carry a big stick; you will go far.」(棍棒を持ちソフトに話す、そうすれば遠くに行ける=何事もうまく行く)に基づくものだ。

 そのアメリカが第一次大戦参戦に踏み切ったのは、大西洋においてドイツが英仏への軍需物資の輸送を妨害するためUボート(ドイツ海軍潜水艦の通称)で民間商船をも攻撃する無制限潜水艦作戦に踏み切ったためだ。ドイツは劣勢を挽回するために、英仏が大西洋ルートで軍需物資を補給するのを妨害しようとした。

 アメリカは中立国だと言っても、ドイツから見れば敵に大量に物資を補給している「敵国」である。また、当時は衛星による監視で船の種類や国籍を認識できるシステムなど無い。潜水艦の潜望鏡から覗くだけである。それでも国籍はともかく軍艦か民間商船かの区別はつくのだが、それでもドイツ海軍は無差別攻撃を実行した。「敵国への物資の補給は敵対行為である」ということだ。

 しかし、やられたほうは堪らない。戦争とはなんのかかわりも無い民間船がやられてしまうからだ。とくに、一九一五年五月にイギリス客船「ルシタニア号」がUボートに撃沈されて千百九十八人が死亡し、そのうちの百二十八人がアメリカ人だったことにアメリカの世論は激高した。

 さらに一九一七年一月、ドイツ帝国の外務大臣アルトゥール・ツィンメルマンがメキシコに、「もしアメリカが参戦するなら、同盟を組んでアメリカと戦おう。そうすればカリフォルニアが戻って来るぞ」と申し入れたと伝えられた。ツィンメルマン電報事件という。これは本来外交機密であるはずの電報の内容がイギリス情報部によって暴露されたもので、なにやら陰謀の臭いもするのだが、これでアメリカの世論も参戦を認めた。つまりこの時点で英仏は、日本だけで無くアメリカも同盟軍として使える体制が整っていた、ということだ。

(第1436回に続く)

【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。

※週刊ポスト2024年11月22日号

関連記事

トピックス

《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
維新はどう対応するのか(左から藤田文武・日本維新の会共同代表、吉村洋文・大阪府知事/時事通信フォト)
《政治責任の行方は》維新の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 遠藤事務所は「適正に対応している」とするも維新は「自発的でないなら問題と言える」の見解
週刊ポスト
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《自維連立のキーマンに重大疑惑》維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 元秘書の証言「振り込まれた給料の中から寄付する形だった」「いま考えるとどこかおかしい」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
神奈川県藤沢市宮原地区にモスクが建設されることが判明した(左の写真はサンプルです/右は時事通信フォト)
「建設予定地には豚のフン由来の肥料が…」イスラム教モスク建設への反対派陳情を藤沢市議会がすべて「不了承」《激しい論争の影には地元の冷静な声も》
NEWSポストセブン