英仏が得た絶好の「大義名分」

 ただ、ここでもう一つ問題が生じた。ロシア帝国はソビエト連邦になったことで一応は敵では無くなったはずなのだが、ソビエトはチェコ軍団に強い警戒心を抱き、武装解除して民間人になるならウラジオストクへの移動を認めよう、と通達した。

 現代の日本は平和ボケの社会なので、軍隊の武装解除ということがどんなに深刻で当事者にとっては許し難い事態かということかがよくわからない。敵は武装しているのだから、武装解除ということは丸腰になっていつ殺されるかもしれない状態になれ、ということである。

 これも日本史の例を見れば、なぜ織田信長が比叡山延暦寺を焼き討ちしたかと言えば、同じ仏教徒同士で殺し合いをやめない仏教勢力に対し武装解除を求めたからである。僧兵を擁し大名に匹敵する軍事力を持っていた延暦寺は、これを断固拒否した。だから信長は、一罰百戒の意図のもとに比叡山に鉄槌を下した。この一挙は絶大な効果があった。だからこそ天下人の後継者豊臣秀吉は刀狩り(武士以外の武装解除)に成功し、徳川家康の時代には寺院から僧兵が一掃された。

 源義経の「一の子分」武蔵坊弁慶は鞍馬寺の僧兵であったし、その時代から戦国時代にかけて東大寺や興福寺の僧兵が強い力を持っていたことをお忘れ無く。どんなものでもそうだが、突然無くなるわけでは無い。僧兵は、信長・秀吉・家康の努力によって完全に廃止されたのである。

 武装解除というのはそれほど困難なことなのだ。なにしろ丸腰になるのだから、自分の墓穴を掘らされた上に銃殺されたり、連行されて過酷な強制労働に従事させられることもある。これはたとえ話では無い。後にソビエト連邦が、ポーランド軍と日本軍の捕虜に対して実行した残虐行為(カチンの森の大虐殺とシベリア抑留)である。

 逆に、ソビエト連邦に限らずどんな民主主義国家であっても同じことだが、国内に国家の統制に服さない強力な武装集団があるということは問題だ。いつ牙をむくか不安でもある。国家としては武装解除を求めるのは当然である。一方、チェコ軍団にしてみれば、武装解除など絶対に応じられない。

 だが生きている人間の集団である以上、衣食住は確保しなければならない。ソビエト連邦は武装解除に応じない限り、彼らに衣食住を提供するつもりは無い。となると、どういうことになるかおわかりだろう。チェコ軍団が食料を求めればそれは略奪ということになり、拠点を定めようとすれば占領ということになる。当然、ソビエト連邦軍の中核であるボリシェビキはそれを許さない。双方は武力衝突した。

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