斎藤元彦・兵庫県知事の勝利は、“日本版トランプ現象”ではないか。2020年のアメリカ大統領選挙で、1年にわたり“トランプ信者”を至近距離で取材したジャーナリスト・横田増生氏が、斎藤氏が出直しのために挑んだ選挙でどこまで支持を広げることができるのかに注目。告示日前から投開票日までの1カ月間、斎藤支持者に密着取材した(本文敬称略、年齢は取材当時)。【全3回の第2回。第1回から読む】
* * *
私がこの取材で自分自身に課したのは、実名での取材。日本の選挙報道では、あまりにも匿名の有権者取材が多すぎる、と感じていたからだ。しかし、取材を始めると、すぐに「ジャーナリスト」と書いた名刺だけでは話を聞くのが難しいことが分かった。お前は一体何者なのか、どこで何を書くつもりなのか、個人情報をどうするのか、といった無言の抵抗を感じた。
そこで私は、斎藤にインタビューした際の「週刊現代」の記事と雑誌の表紙を両面コピーして、クリアファイルに入れた。それを100セット以上作り、名刺を渡した後で記事を手渡した。名刺の名前と、雑誌に書かれた私の名前が一致すると、多くの人が実名で話を聞かせてくれ、写真も撮らせてくれた。
告示日の出陣式に斎藤の演説を聞きに来た神戸市在住の会社経営者の内山淑登 (よしと・51)は、こう語る。
「最初のころはテレビが報道する、パワハラやおねだりを鵜呑みにして、斎藤って最悪なやつやな、と思っていました。けれど、全国ネットのテレビまでが斎藤さんを叩くようになって、集団いじめのようになってきた。テレビがここまで叩くのはおかしいな、と思って調べだしたんです」
Xやフェイスブックで調べてみると、斎藤が失脚した“本当の理由”が次々に見つかった。百条委が結論を出す前に、不信任決議案を可決した裏には、1000億円かかるといわれる県庁舎の建て替えにストップをかけたり、70歳までだった県職員OBの天下りを65歳に引き下げた政策があることを知った。
さらに、百条委で斎藤を責め立てた県議 たちのXの投稿を追うと、「えげつない」ほど斎藤を攻撃していることを知り、その反発心から斎藤を応援する気持ちが芽生えてきた。内山の主な情報源はネットであり、新聞は購読しておらず、「テレビは1ミリたりとも信用していない」。
その内山が激怒したのは、告示日直前に朝日放送が報道した立候補予定者による討論会だった。番組には元明石市長の泉房穂が出演し、元県民局長の自殺に関しての謝罪を拒む斎藤に「変わりませんか、その態度は」などと激しく追及した。
「最悪の番組でした。あまりにも公平さを欠いていたので、朝日放送に抗議の電話を入れました。40回以上リダイヤルして、ようやく電話が通じ、番組がいかに不公平かということを訴えました」