僭越ながらもっとわかりやすく言えば、日本列島はそもそも地震が頻発する国土で、ギリシャのパルテノンの丘やニューヨークのマンハッタン島のような堅固な地盤はほとんど無い。だから、日本全体を「泥の海」と考えればいいわけだ。「泥の海」だったら建物はまさに筏のような海に浮く「船」であるべきで、地面に固定するなどという考え方は捨てるべきだ、ということになる。
イメージとして日本製の原発というのは球体でも箱状でもいいのだが、地面に固定されていない泥の海に浮かぶ「ブイ」あるいは「箱舟」だと考えるのだ。内部の制御は無線でAIとリンクして行なう。外部とのリンクは、発電した電力を送る送電線だけ。こうすれば、大地震が起こって送電線が切れても原発自体にはなんの支障も無く、地震が治まればまた送電線をつなぎ直して稼働させればよい。
また、いま日本が頭を悩ませている「核廃棄物の捨て場」も、そもそも西洋風に「地下室を造って納める」という考え方は捨て、「泥の海」のなかに浮かぶコンテナとして、きわめて頑丈に造ればいい。そうすれば、極端な話、首都圏の近くでも置けるはずだ。もちろん何百年経過しても中身が漏れない頑丈な「金庫」のような形で造る。つまり、そうしてコストを下げた安価できわめて安全な日本製「ブイ型」原発、「コンテナ型」廃棄物倉庫を造れば世界中の国が買いにくるはずで、人類全体のエネルギー問題解決にもつながるし、中国だって買わざるを得ないだろう。仮に日本の技術を盗もうとしても、それならそれでより安全な原発が造られるわけだから、日本の利益にもなる。
要するに、外部と完全に隔絶、独立し、移動も可能な「トランジスタ原発」を造ればいいということだが、ひょっとして実現不可能だと思う人がいるといけないので念のために述べておく。実現不可能どころか、そうした外部と隔絶した小型移動式原子炉はすでに実用化され、何基も存在している。原子力潜水艦の原子炉である。つまり、あれを軍用目的で無く、もっと大規模に民生目的で造れということだ。
最後にもう一度言うが、「東京から中国・上海まで境無しの空域」なのである。日本はこの道をいく以外他に無いと私は考えるが、読者のみなさんはどう思われるだろうか?
(新年特別編・終)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号