日曜劇場『御上先生』で主演を務める松坂桃李
1月クールのドラマで注目を集めている松坂桃李主演の日曜劇場『御上先生』(TBS系)。詩森ろばさんが手がけた脚本が絶賛されているが、評価が高いのはそれだけではないようだ。これまでの学園ドラマとは一線を画すポイントについて、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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視聴率、ネット反響、識者の評価……冬ドラマの中で『御上先生』(TBS系)があらゆる面で“一人勝ち”というムードが高まっています。
同作は「文部科学省の官僚が派遣制度によって私立高校に出向して教師となり、独自の授業を行うほか、権力に侵された日本教育に立ち向かっていく」という学校が舞台のエンタメ作。単純な学園ドラマに留めず、文部科学省を絡めて教育そのものを扱い、さらに殺人事件などをめぐるミステリーを盛り込んだハイブリッドな作風で幅広い視聴者層からの支持を集めています。
さまざまな要素を絡めたエンタメ性の高さに加えて評判がいいのは詩森ろばさんが手がける脚本。これまで主に舞台を手がけてきた詩森さんは「民放のドラマも、連ドラを1人で手がけることも初めて」ながらも、主人公・御上孝(松坂桃李)による説得力十分の授業に加えて、TBSの象徴的な学園ドラマ『3年B組金八先生』を否定するようなセリフを織り交ぜるなど硬軟自在の脚本で称賛を集めています。
実は『御上先生』は一般視聴者だけでなく、「業界内の視聴率も断トツ」と言われていますが、その理由はこれらではなく、生徒役のキャスティング。「これまでの学園ドラマとは一線を画す」「これだけそろえたら見ないわけにはいかない」とまで言われるキャスティングは具体的にどんなところが凄いのか。若手俳優たちの名前をあげながら掘り下げていきます。
「外見と人気」優先の学園ドラマ
これまで『御上先生』は放送のたびに多くの記事が配信され、SNSのコメントも活発にアップされてきましたが、その大半はストーリーや御上先生のセリフに関するものが占めていました。
つまり「それだけ脚本・演出が素晴らしいから、業界内で注目を集める生徒役があまり話題にあがってこなかった」ということになります。しかし、回が進むにつれて徐々に1人1人の生徒役がクローズアップされはじめてきました。そして勘のいい人は生徒役のキャスティングが凄いことに気づいたようなコメントをしはじめています。
では具体的に何が凄いのか。ひと言で言えば、“実力優先が徹底されたキャスティング”でしょう。「何だそんなことか」と思われるかもしれませんが、特に学園ドラマの生徒役はこれが難しいところがあります。
もともと学園ドラマは主に教師が務める主人公の主演俳優だけでなく、「生徒役の若手俳優で視聴者を引きつける」というプロデュースを採用してきました。大手芸能事務所から期待の若手をピックアップするほか、すでに一定の人気を持つアイドル、モデル、グラビアタレントなどを起用。視聴率を確保し、スポンサーを納得させるために、外見や人気を先行させて実力は後回しになり、視聴者から「こんな美男美女ばかりのクラスないよ」とツッコミを入れられがちでした。
これは民放各局共通であり、日曜劇場で放送された学園ドラマを見てもほぼ同様。2021年の『ドラゴン桜』、2016年の『仰げば尊し』、2014年の『ごめんね青春』でも程度の差こそあれ、その傾向が見られました。唯一、高校野球を扱った2023年の『下剋上球児』は、野球の技術やプレー中の表情をベースにフレッシュな若手俳優を集めたものの、やはり演技の実力を優先したキャスティングではありませんでした。