フィリピン・マニラ近郊にあるビクタン収容所
相次ぐ「闇バイト」による強盗だが、なかでも世間の大きな注目を集めたのが、フィリピンの指示役たちが遠隔で実行役を動かした連続強盗事件だ。その実行役リーダーの獄中手記をノンフィクションライターの高橋ユキ氏が入手。そこに犯行での役割分担の詳細が綴られていた────。【前後編の後編。前編を読む】
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「闇バイト」による広域強盗が社会的に注目を集める契機となった2023年1月に東京都狛江市で発生した強盗致死事件。ここではSNSの「闇バイト」に応募した実行役らが、秘匿性の高いアプリ「テレグラム」を介し、フィリピンにいる指示役からの命令を受け、強盗を実行、家にいた高齢女性をバールで殴って死亡させた。
この事件でリーダーとして現場を仕切っていたのが永田陸人被告(23)だ。これを含む6事件に関わったとして一審・東京地裁立川支部で昨年11月、求刑通り無期懲役の判決が言い渡された。その永田被告は、まず最初に実行した神奈川県の空き巣については、手記で〈当時の私は窃盗に対して全く抵抗がなかったため「楽だ」と思っておりました〉と綴る。
〈加えて指示役から報酬が支払われるという保障(原文ママ)もなかったので盗品物から個人的に約170万円になる物をくすねました。結果、個人的に170万円を確保した上で報酬という二重で現金等を入手したため、それに気付かない指示役に対しても、「アホやからチョロくて楽だ」と重ねて思いました〉(永田被告の手記。以下〈〉内同)
二件目、東京都中野区での強盗も、同様の心境だった。
〈プッシャー(※筆者注・麻薬の密売人の意)の叩き(※強盗の意)をした事があり、加えて知人が賭博荒らしをしていた事もあり、強盗に対しても特に抵抗がありませんでした。しかしプッシャーも賭博者も犯罪者であり、私は“悪い事をしていたら何をしても良い”と思っていましたので一般の方に叩きをする事は抵抗がありました。しかし指示役からの情報で悪い人だと聞き「それなら叩いても良い」と考え、ためらう事なく事件を起こしました〉
実行後に逮捕の可能性があることを知った永田被告は〈初めて強盗で逮捕されると何年くらうのか(刑期)をSNSで検索〉したのだが〈実情はさておき当時の私は勘違いをして“強盗は5年”と認識し、「パクられても5年で済むならパクられるまでシャバ(社会)で遊んでおこう」、「パクられないように柄(身)を隠して自分も指示役になろう」と考えて〉しまったのだという。