犯行当時の心境が記されている
〈まず犯罪で幸福は得られないという事実です。“幸福は他の誰かの不幸や犠牲によって得られるものじゃない”この考えを念頭におけば犯罪に手を染める事はないと思います。次に人間は行動を重ねていくと抵抗感が減っていくので、正常な心も自覚しない内に異常になります。闇バイトに手を出す時点で正常な心とは言えませんが、それでも私は正常な心の持ち主なのに選択肢が1つしかないと思い、闇バイトに手を出し、結果、苦しんでいる者を知っています。最後に必ず苦しみます。苦しみの基準は人によりますが例として“刑務所に入ること”“大切な人を失うこと”“被害者の方の苦しみを知ったとき”など必ず苦に感じる現実を味わいます。そしてこの苦しみは自分1人で済むものではありません。そのため私としては「お願いだからやらないで下さい」としか言えません。どうか私と違って幸せにする人になってほしいと切に願います〉
競艇とヤミ金返済のため「闇バイト」に応募。“頭のネジ”を締め直す瞬間は訪れないまま、立て続けに凶悪事件に関わり、21歳で逮捕。23歳の今、刑務所で一生を過ごすこととなった。最後に必ず苦しむ……身をもって知った被告の訴えは「闇バイト」を検索する若者に届くだろうか。手記の最後はこう結ばれていた。
〈長文、乱文、乱筆、失礼いたしました。私のような者の拙い文章に目を通して下さり謹んで心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。 令和7年2月 永田陸人〉
【プロフィール】
高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。
(了。前編を読む)